14. 弔いの鐘
そのまま朝までぐっすり眠ってしまった。
私が目覚めると隣のベッドにレイナの姿はなかった。
窓に打ち付けられた板の隙間から、眩しいくらいに朝の光が差し込んでくる。
昨日の探索と戦闘での疲労からか、体が重くて朝からだるく感じた。
寝ぼけまなこをこすりながら階段を降りると、食堂からはコーヒーの良い香りが漂ってくる。
レイナが厨房で朝食を作っていた。
「おはよう、あれから体調は問題ない?」
「おはよ~、体力は回復したけど少し疲れてるかな。吸血鬼にはなってないから安心してよね」
私は笑いながらそう言うと、朝の陰鬱な空気を和ませようとした。
レイナは心配そうに私の顔色を確認している。
「お腹空いてるよね? パンとコーヒーしかないけど、マルコさんに分けてもらった食料だよ」
「そっか、マルコに感謝しないとね」
私たちはテーブルに座って朝食を食べた。
とても悲しかったけど、お腹が空いていたので硬いパンでも美味しく感じた。
湯気の立つコーヒーを飲んで一息ついてから出発の準備を始める。
けれど私はまだ修道院で調べたいことがあった。
どうしても外にある墓地が気になる。
それにマルコの遺体をこのまま主聖堂に放置しておくわけにもいかない。
「あのさ、マルコの遺体をお墓に埋めてあげたいんだけど……」
「そのほうがいいと思う。きちんと埋葬してあげようか」
「それに動き出して誰か襲われたりしても大変だからさ」
「アンデッドにでもなったらね……」
私はレイナと相談して、マルコの遺体を庭の墓地に埋めることにした。
主聖堂にある遺体を確認すると、すでに一部は皮膚と肉が消失して骨格がむき出しになっている。
おそらく吸血鬼に血液を大量に吸い取られたからだ。
とても惨い姿だった。
「昨日の夜はみんなで楽しくお喋りしたのにね。一晩でこんな姿にされるなんて……」
「あたしたちにできることは、弔ってあげることだけだよ」
「わかってるよ。マルコを外まで運ぼうか」
ふたりでマルコの遺体を墓地まで移動させた。
鼻にまとわりつくような死臭のせいで、食べたものを吐きそうになった。
☆☆☆
修道院の物置で見つけたシャベルを使って穴を掘っていく。
墓にかぶせられた土はやわらかく、最近まで何度も掘り返されているようだ。
すぐに土の中からはごろごろと人の骨が出てきた。
かなり浅く雑に埋められているのがわかる。
「なにこれ、かなり浅く埋められてるよ」
「埋められたのは最近だね。きっとカーミラに殺された人たちだよ」
「これじゃ安らかに眠ることなんてできないよ」
深夜に徘徊していたスケルトンも、この墓穴から蘇ってきた者たちだろう。
大量の骨と一緒に、遺体が身に着けていたと思われる衣服なども埋められている。
その中に『鳥の形をした木のブローチ』があった。
私はブローチを手に取ると、土を払ってからレイナに見せた。
「レイナ、これ」
「鳥のブローチ……。セシル君が身に着けてたもので間違いないとは思うけど」
「きっと修道院まで連れてこられて殺されたんだ」
おそらく結末はこうだ。
最後にインプが言おうとした言葉、使い魔であろうインプを殺したと伝えたときのシスターの反応。
セシル君はお母さんの誕生日を祝うため、野イチゴを摘みに森へと入ってインプと出遭った。
そして修道院まで連れてこられて、最後はカーミラに殺されて墓地に埋められた。
無垢な子供だからこそ、騙されてここまでついて行ってしまったんだ。
カーミラがブローチを奪わなかったのは、木で作られた安いものだからだと思う。
これでようやく行方不明の子供を見つけてあげることができた。
温かみのある手作りのブローチはハトの形をしている。
「助けられなくてごめんね。お母さんが待ってるお家に帰ろう」
私はそのブローチを大切に鞄にしまった。
レイナは悲しそうな顔をして墓穴を見つめている。
カーミラはわざわざ殺した人の遺体を墓地に埋めていたようだ。
もし崖から海に遺体を捨てられていたら、発見するのは不可能だったと思う。
「私が穴を掘るから、森で花を摘んできてくれない? さすがに何もないと寂しいからね」
「わかった。綺麗な花を探してくるよ」
私は遺体を埋められる程度の浅い墓穴を掘った。
その間にレイナが森で綺麗な草花を摘んできてくれた。
赤、白、黄色、青。
色とりどりの花をマルコの遺体とお墓に供える。
「どうか安らかに……」
私は目を閉じて、ここで眠る人たちの冥福を祈った。
今できるのはこれが精一杯だ。
でも、また夜になれば墓から這い出してくると思うと悲しくなってしまう。
「あっ、忘れるとこだったよ」
レイナが懐からキングローリエの葉を取り出す。
目を閉じて祈りを込めるように、その葉をそっと優しく墓地に埋めた。
「不死として再び蘇りませんように……。どうか安らかに……」
そういえば最初に修道院に入ったとき、シスターはレイナを見ると嫌な顔をしていた。
修道院が瘴気に満ちて悪寒に襲われたときも、レイナに触れられたら悪寒が消えて身体も楽になった。
キングローリエが旅のお守りとしても使われているのは知っている。
今まで半信半疑だったが、どうやら効果は本当にあるようだ。
レイナは静かに立ち上がると優しく微笑んだ。
「これでよし、あとは報告して教会に任せようか」
「私たちができることはこれくらいかな。支度をしたら町まで戻ろう」
「夕暮れまでには町に戻りたいね」
「帰りは寄り道もしないから大丈夫だよ」
しかし修道院ですることは他にも残っていた。
次にここに訪れた人のために置手紙を書いて残しておく。
マルコの所持品などは全て、教会や修道院で役立ててもらうために置いていくことにした。
そのほうがきっと彼も納得してくれるはずだ。
「もうすることはないかな?」
「そうだ、忘れてた。レイナはちょっと外に出て待ってて」
私は急いで階段を駆け上がると鐘楼に向かった。
鐘楼には修道院の鐘が置かれている。
下ではレイナが手を振っているのが見えた。
ロープを引いて鐘を揺らすと、美しい鐘の音が周囲に響き渡った。
この修道院で眠る人たちへの弔いの鐘だ。
屋根にとまっていた白いハトが、一斉に大空に向かって飛び立っていく。
澄み渡った雲ひとつない綺麗な青空だ。
私はそれをしばらく眺めていた。




