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異世界の英雄を育てた私の晩ごはん  作者: 海野三矢子
二章 英雄、成長期
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「え、それで? 大丈夫だったんですか?」

「うん、孤児院までの道順は覚えていたし、ルルーちゃんとミノ君も一緒にきてくれたから全然平気だったよ」


 二人にも御礼にパウンドケーキを一本プレゼントした。

 ルーク君と一緒に食べようと買ってきた分だったので、また今度洋菓子店に買いに行こうっと。


「危険な目にあってないですよね?」

「うん」

「変な人に絡まれたりしませんでしたか?」

「本当に大丈夫だってば。それより、ほらこっちのお肉も食べられるよ。焼き豆腐もどうぞー。熱いから火傷しないようにね」


 心配性なルーク君は大丈夫だったと言ってもなかなか食事が進まない。まさか孤児院まで行くなんてとぶつぶつ言っていた。そういえばルーク君の部屋がある建物から離れずに近場で実験することって約束していたことを思い出した。

 せっかくのすき焼きだから食事に集中しようよと追加の具材を鍋に入れる前にルーク君のお皿にお肉を避難させる。固くなる前に食べないとせっかくのお肉が台無しになってしまう。


「うまっ!?」

「でしょ? お肉屋さんのオススメのお肉だからね。どんどん食べてよ。たくさん買ってきたからさ……ほら、ご飯のお代わりもどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 ルーク君は恥ずかしそうな顔で咳払いした。


「こんなに柔らかい肉を初めて食べました。それに生卵も……」


 程よい甘さとボリュームたっぷりのお肉のうまみが口いっぱいに広がる。

 とき卵にからめたつやつやな大きなお肉がルーク君の口の中に次々と消えていく。とても気持ちの良い食べっぷりだ。大盛りのご飯もあっという間に減っていく。うんうん、分かるよ。美味しいよね。

 お肉が美味しいのは当たり前だが、ルーク君は生卵にも驚いているようだ。ルーク君の世界では生卵は食べないらしい。こちらの世界でも日本人は当たり前に食べる生卵だが、海外では食べない国が多いと聞いたことがある。もしかしてあまり好きじゃなかった?

 生卵が嫌いかもしれないという可能性を全く考えていなかった。


「ごめん、生卵大丈夫だった? 食べられるかな? ごめんね、確認もしなかった……無理そうだったら卵なしにしようか?」

「美味しいです。生卵ってこんな感じなんだ」

「あー、品質管理や衛生管理が十分に整っていない生卵を食べると食中毒になるからね。生卵ってご飯にかけて食べても美味しいんだよ。今度食べてみる?」

 

 みんな大好き卵かけご飯。

 醤油をかけるだけでも美味しいがアレンジを加えても美味しい。白米に生卵をかけるだけのお手軽さなので、前の会社で働いていた時は疲れきって食事を作る気にもならない日の晩ごはんによく食していた。美味しさとコスパのバランスが最強なのだ。


「食べてみたいです」

「ふふ、それじゃあ卵かけご飯は次の機会にしましょう。今はすき焼きを食べないと。ささっ! 追加のお肉を入れちゃうよ」

「はい!」


 お肉はたくさん買ってきてある。

 腕捲りをしてみせてから鍋の中にお肉を入れていくとルーク君の瞳がキラキラした。出会った頃よりも少しずつ大人びてきたルーク君だが、食事中は可愛らしい少年の顔に戻る。この顔が見たくて毎晩ご飯を作っていると言っても過言ではない。

 ルーク君が食べる姿を見ながら自分の箸も進める。

 最初は食事に夢中だったルーク君の表情が徐々に曇り始めた。何かを考え込んでいるようでどうしたのだろうと気にはなったが、鍋の具材が空になりルーク君の動きが完全止まるまで様子を見守る。



「……でも結局何も分からなかったなら学校交流大会には来ないほうが良いかもしれないですね」


 ぽつりとルーク君が呟いた。


「何で? 行くよ?」


 ルーク君が何を考えているのかようやく分かった。

 どうやら私が学校交流大会に来れないと思っていたらしい。今回実験したが時間のずれは起きなかった。それならばやはり行かない理由はない。


「え、でも……」

「お弁当を作って行くって約束したじゃない」

「そうですけど」

「今回の調査結果では時間のずれは起きなかったし、次も大丈夫じゃないかな」

「でも次はどうなるか分からないじゃないですか」

「うーん、もし時間がずれてしまったらその時はその時かな。あ、でも冷蔵庫の食材だけは念のために整理しておかないと。この間は食材駄目にしちゃったから」

「……本当に?」

「うん、ルーク君の応援に行くよ」


 ルーク君は目を少し伏せそれ以上は何も言わない。

 ただテーブルの上に置かれた手がもじもじと動き、嬉しそうに綻んだ口元から喜んでいるんだろうなってことは分かった。それならばこちらも全力でルーク君の応援しなくてはならないなという気持ちが強くなる。

 でも応援ってどうすれば良いんだろう。学生時代のイメージでいったら野球応援みたいな感じなのかな? きっと学校ごとに選抜されたメンバーを生徒達や観客が応援するんだよね。それならメガホンとか必要だろうか? あ、そうだ。ルーク君が満足出来るくらいのお弁当といったらお重箱が必要になるかも……今から色々下調べして準備を始めないと、学校交流大会までもう日がない。


「ねぇ、そういえば学校交流大会ってどんなことで競い合うの? 運動会みたいな感じなのかな?」

「運動会? 俺達がやるのは一対一の模擬戦です」


 どうやら運動会とは違うらしい。

 剣と魔法を使い各校が総当たりの星取り戦形式で勝負をしていくそうだ。

 二勝した学校がその年の優勝校となり、更に最優秀選手が選ばれるらしい。歴代の猛者と呼ばれた騎士団長達が皆通る道で、圧倒的な力を見せつけて騎士学校を卒業して早々に隊長に登り詰めた人もいたそうだ。


「でも怪我には気を付けてね」


 ルーク君が活躍する姿を見るのはとても楽しみだが、怪我だけは心配だ。ルーク君の世界には治癒魔法という便利なものがある。私も治癒魔法のおかげで今も生きているが、怪我をしたら痛いし辛い。


「怪我なんて日常茶飯事だから平気ですけど心配してもらえるのって嬉しいです」


 へへっと照れくさそうに笑いながら頭を掻くルーク君。

 怪我が日常茶飯事というのは本当のことなのだろう。騎士として生きていくために騎士学校に通い鍛練していると分かっていても、怪我だけは注意してほしいと願ってしまう。

 食欲が戻ってきたルーク君のために昼ごはん用に買っていた素麺を茹でて水で締めてから、残り汁に入れて手早く煮る。残っていた野菜も切って追加で投入。お肉や野菜の出汁で素麺をとても美味しく食べられた。

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