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「ルルーちゃんとミノ君っていうのね。可愛い名前。あ、そうだ。二人にこれあげる」
リュックの脇ポケットに入れていたミルクいちごの飴を「どうぞ」と二人に一つずつ手渡す。
飴を受け取ったものの不思議そうな顔でこてんと首を傾げた二人につられて、私も「ん?」と同じように首を傾げた。
「あ、ごめん。こうやってあけるの。ミルクいちごの飴なんだけど嫌いじゃない? 食べられるかな?」
飴は一つ一つ小袋に入っており、あけかたが分からなかったらしい。
弟のミノの手にあった飴の袋を破いてころんと手のひらに転がす。同じくルルーの袋も破いてやった。弟のミノは警戒しているらしく飴を食べるのを躊躇っているようだが、ルルーは反対にポイッと素早く口に入れた。
小さな手で口をおさえ、見開かれた緑色の瞳がキラキラしている。口の中に広がる甘味が信じられないといった表情だ。
「ミノ! すごくあまくておいしい。ミノもたべて」
姉のルルーに言われてミノも飴をおそるおそる口に入れる。
ころんと飴が口の中で転がる音が聞こえ、ミノはすぐに両方の頬を触り無言で目を閉じてうっとりと味を楽しみ始めた。おしゃべりなルルーと物静かなミノは甘いおやつをくれた私にすっかり懐いてしまった。
ルルーとミノはルーク君と同じ集合住宅に母親と三人で暮らしているそうだ。日中に母親が食堂で働いている間、近所に住むおばあさんの家で預かってもらっているらしいのだが、血縁者というわけではなく、親が働いている間に面倒を見ることが出来ない子供達を数人預かるおばあさんらしい。そのおばあさんが昼寝をしている間に二人で家に帰って来たそうだ。
「ええっ!? 勝手に帰って来ちゃったの?」
目覚めたおばあさんがルルーとミノがいないことに気が付いたら驚いてしまうんじゃないだろうか。
しかし割りとよくあることらしく、大丈夫だよとルルーはけらけらと笑っている。飴を貰えたから帰って来てよかったねーとミノに話しかけ、ミノも頷いている。あまりに飴を喜んでくれたので追加で一人二つずつ飴を握らせた。
検証の間ずっと二人は私と一緒にいて、検証結果を書くために持ってきていたメモ帳に落書きしながら時間が過ぎるのを待つ。二人の似顔絵を書いてみせたり、日本で子供に人気な有名キャラクターを書いた。あまり上手に書けなかったが二人がほしがったのでメモ紙を破いてプレゼントする。「ありがとう」と嬉しそうに笑い、メモ紙をまるで宝物を扱うみたいに大事そうにポケットにしまっている。全然大したものじゃないので何だか申し訳ない気持ちになってしまった。
腕時計で時間を確認するともう一時間たっていた。二人のおかげであっという間に時間が過ぎたらしい。
ルーク君の部屋に戻って時間を確認しないと。
「ちょっと待っててね」
急いでルーク君の部屋に戻って自分の部屋の時計と時差を確認する。さっきと同じで時間の変化はもちろん日付の変化もない。時間の流れは変わっていないということだ。
「……これは一体どう考えればいいのかな?」
検証の結果。
私の仮説は外れたことになる。
「それじゃあ?」
「うん、何も分からなくて……ごめんね……」
「それよりも俺はゆいさんが無事だったことに安心しました」
「ふふふ、大丈夫だったよ。仮説は外れちゃったんだけどお友達が出来たんだよね」
「えっ!?」
今日の晩ごはんはすき焼きだ。
二人で鍋を囲みながらルーク君に今日の出来事を報告する。お肉屋さんで本日のオススメと売っていた牛肩ロースを生卵に絡めて食べると頬が落ちそうになる。少し赤みの残るとろける肉のやわらかさに感動してしまう。すき焼きを食べるなんていつぶりだろうか。白菜、ねぎ、春菊、えのきたけ、生しいたけ、春菊。それと焼き豆腐としらたきを入れた定番のすき焼きだ。
「お友達って?」
日中に出会った二人の子供のことだ。
ルルーとミノの話をするとルーク君は二人のことを知っているのか「あの二人のことか」と驚いた顔をしている。
しかし続く私の話は更にルーク君を驚かせてしまった。
「あ、あと孤児院にも行って御礼してきた」
「ええっ!?」
あの後、ルルーとミノと一緒に孤児院に行ってきた。
本当は一人で行くつもりだったのだが、二人も一緒に行くと言い出したのだ。二人の母親はまだしばらくは帰ってこないらしく子供二人を残していくわけにもいかず連れていくことにした。
実験を開始する前に、近所の洋菓子店で購入して来たパウンドケーキを御礼に準備していた。最近開店したばかりの可愛らしい店舗が目印の洋菓子店で、強面の店長が作ったとは思えないくらい繊細な味で美味しいと商店街でちょっとした評判になっていたので気になっていたのだ。さすがに生菓子じゃないほうが良いだろうと悩んでいた時に店長に味見をさせてもらったのが美味しくてパウンドケーキに決めたのだが大正解だった。
ルーク君に実験の許可をもらってからどうせなら孤児院にも御礼に行かなければならないと昨夜寝る前に思い立ち、孤児院に行くことも計画に練り込んでおいたのだ。
孤児院までの道は覚えているし一人でも大丈夫行けるだろうと。
孤児院にいる子供が20人くらいと聞いていたので、プレーン、ショコラ、オレンジ、抹茶の四本セットを二つ買ってそれをリュックに詰めて持って行くことにした。ちょっと多いかなとも思ったが、分けて足りなくなるよりは良いだろうと多めに手配した。院長のノーシュとミーシャは突然御礼にやってきた私を歓迎してくれ、「これ少しですが御礼の気持ちです」とリュックから次々出て来たパウンドケーキの量にミーシャは瞳を真ん丸にして大きく見開く。「わぁ」と呟いた声は弾んでいて表情を確認せずとも喜んでくれていることが分かった。
ノーシュに「貴女を助けたのはルークで私達は御礼を頂くようなことはしていません。気にしないで下さい」と断られかけたが、孤児院の子供達に食べて欲しくて買ってきたので貰ってくれないと困ると説得して少し強引に置いてきた。




