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大きな保冷リュックを背負いながら、私は異世界の闘技場の前に立っていた。
ルーク君が暮らすアイゼングレーグの初代国王がとても強い騎士の王様だったということが影響しているのか、見上げるくらい大きくて立派な闘技場は圧巻だ。
今日はルーク君の学校交流大会の日である。
約束したお弁当を作って会場までやってきたのだが、街はお祭りのように盛り上がっている。年に一度の学校交流大会は未来の優秀な騎士のたまごを発掘する場所であり、王都民の娯楽の一つらしい。
「確認出来ました。どうぞこちらへ」
交流大会の選抜メンバーに選ばれた生徒の関係者は特別席への招待が許されており、私はルーク君の関係者として案内係にこぢんまりとしたバルコニーへと誘導された。
突き出たバルコニーに座り心地の良さそうな長椅子が置かれ、日除けのサンシェードが取り付けられている。そのおかげで暑い日差しが直接あたるのを免れたことはありがたい。
ここの他にも同じような作りのスペースが何ヵ所かある。特別席はどうやら大小様々に複数あるようだ。
バルコニーから下を覗くと安い入場料で入れる平民用の観覧席に人がごった返しているのが見えた。まだ入場口に人が行列を作っていたので、さらに人が増えることは簡単に予想出来る。ルーク君から特別席に招待してもらえていなかったらきっと人混みにのまれ、ルーク君の勇姿を見られなかったかもしれないなと思うくらい観覧席は人と熱気が溢れている。
「交流大会が始まるまでどうぞ座ってお寛ぎください」
「はい、案内ありがとうございます」
案内係にお礼を言い、長椅子の端に座った。他の人が来た時に邪魔にならないようにするためだったが、その後バルコニー入り口前の通路を通り過ぎる人達は何人かいたが私がいるバルコニーに誰かが案内されて入ってくることはなかった。
保冷リュックを背中から下ろし、中から冷たいお茶が入った水筒を取り出して乾いたのどを潤す。一息ついてからこの日のために購入したビデオカメラをショルダーバッグから出した。
「ふふふ、今日はこれでルーク君のかっこいいところをたくさん撮るんだから」
家電量販店のお兄さんに勧められた軽量のハンディタイプのビデオカメラだ。丁寧な説明と軽快なサービストークにつられて購入してしまったわけだが、せっかくルーク君が学校の代表に選ばれたのだ。どうせならしっかり記録に残しておきたい。
それに後でルーク君と一緒に見ることが出来るしね!
楕円状の広い空間の一番深い部分が石畳となっており、どうやらそこで交流大会が行われるらしい。上から選手達を見下ろせるようになっているようだ。
喧騒ともいえるほど盛り上がっている会場に大きな銅鑼の音が響き渡った。交流大会が始まる合図だったようで、騎士服を身にまとった生徒達が現れ整列する。見つけられなかったらどうしようかと不安だったが、周りの生徒達より小柄なルーク君はすぐに見つかった。ルーク君が小さいのかそれとも周りの生徒が大きいのか……いや、たぶんどちらも正解。
すぐさまルーク君にビデオカメラをむける。
背筋をぴんと伸ばし、緊張した面持ちのルーク君がきょろきょろ周りを見回していた。落ち着きのない様子に私まで緊張してしまう。
ふと広い会場を見上げたルーク君と視線が合う。
手を軽く振るとルーク君の表情が少し和らいだように見えた。「がんばれ」と心のなかで応援し、ぐっと握りこぶしを作るとルーク君も同じように胸の前でこぶしを握る。
それからは落ち着きを取り戻したようだった。
交流大会に参加する騎士学校は三校。
ルーク君が通う初代国王が設立したアイゼングレーグ騎士学校。王都よりも北にあるローワングレア騎士学校と南にあるイラシュエル騎士学校。この三校の選ばれた優秀な生徒達が学校の威信をかけて戦うとルーク君が言っていた。
楽しみでもあり、心配でもある。
まだ学生とはいえ剣と魔法を使った真剣勝負。じんわりと首にかいた汗をハンカチで拭い、ビデオカメラを構え直した時に入り口の方から声が聞こえた。
「なんだ、ここが空いているじゃないか」
声がした方に振り返ると美丈夫が立っていた。
銀色の短髪に柔和な切れ長の目。明るい緑色の瞳が私の存在に気がつき、微笑が口角に浮かぶ。白と深緑色の騎士服を身にまとった男の華やかな存在感に圧倒されてしまう。
「煩くしてしまい申し訳ない、お嬢さん。我々もここで観戦してもかまわないだろうか?」
「……テオドール様、いくらなんでもここは」
男はテオドールというらしい。
テオドールの後ろからもう一人の男が現れた。テオドールと同じ色合いの騎士服を着ている。違うのはテオドールのジャケットにはマントと首回りにはアスコトットタイ。男のシンプルな騎士服よりも優雅に見える。
「まぁまぁまぁ、ジェイク。いいじゃん? ここなら静かに将来有望の後輩達が見られるだろ」
もう一人のジェイクと呼ばれた男もテオドールと同じくらい体格が良い。濃紺の癖のある髪を後ろに流し、眼鏡をしたジェイクはテオドールとは対照的に派手さはないが実直な雰囲気の男だ。
二人とも騎士なのだろう。
「父上と母上には後で適当に謝罪しておこう。もちろん兄上達にも」
「……承知致しました。貴方様のお望みのままに」
観戦許可を求められたが私が返事をする前に、彼等がここで観戦することは決まったみたい。
もちろん不満はないので「どうぞどうぞ」だ。
二人は私と少し離れたところに置いてある長椅子に座った。
お互い話すこともないので、私は再びルーク君に視線をむける。もちろんビデオカメラでの撮影も再開した。
「……お嬢さん、それは?」
いつの間にか気配なく背後に近寄ってきていたテオドールに声をかけられ、思わず驚きの声をあげてしまう。
振り返るとどうやら私が持っているビデオカメラに興味があるようで、私の手元を凝視しているテオドールが思ったよりも近くにいて更に驚愕してしまった。
「えっ、えーっとですね。これはビデオカメラといって交流大会の様子を撮影していました」
「ビデオカメラ? 撮影? 初めて聞いたな。ジェイクはこれが何か知っているか?」
「いえ、私も初めて聞きました」
この世界にビデオカメラがあるとは思えない。
説明しようとビデオカメラをテオドールに向けると、少し離れたところに立っていたはずのジェイクが目にも止まらぬ速さで私の手を捻りあげた。




