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街並みだけじゃなく、こちらの世界の食文化も気になる。
道の両側に屋台みたいなのが並び、食べ物を売ったり食材のようなものを売っている。気になるものがあると足を止め、あれは何? とルーク君に質問すると、分かる範囲でルーク君が説明してくれた。
それにしてもお腹が空く良い匂いがそこかしこからしている。活気があり、ただ見ているだけでも楽しい。
「あれ、ルーク?」
突然を声を掛けられてルーク君が立ち止まり、私もすぐ足を止めた。
ルーク君に声をかけたのは二人組の少年だった。一人はひょろりと背がとても高くオレンジ色の髪に若草色の瞳をしており、もう一人の方は人懐っこい笑みを浮かべて癖のある黒髪を揺らしながら近寄ってくる。黒髪の子は私と同じくらいの身長で、同じく眼鏡をしている。
「グリムにロアーノ? なんでこんなところにいるんだ?」
「ルークが言ったんだろう。ここの肉屋の料理が美味かったって。グリムがどうしても食べたいって言いだしたからわざわざここまで来たんだよ」
屋台の一つに二人は並んでいたようだ。
「美味いって言ったけど貴族様がわざわざ来るか?」
「貴族って言ったって僕たちは平民と変わらない慎ましい生活をしているんだぜ? で、それよりそちらの女性は?」
グリムとロアーノと呼ばれた二人の少年の視線が集まり、私は「こんにちは」と頭を下げる。
「この人はゆいさん。こっちの大きくて無口なのはグリム、小さくて煩いのはロアーノ」
「はじめまして、ゆいです」
ルーク君が簡単にお互いのことを紹介してくれた。大きい子がグリムで小さい子がロアーノというらしい。
その紹介に不満を持ったロアーノが「小さいってなんだ! ルークの方が僕より小さいだろう」と怒っているし、グリムは我関せずといった感じで黙っている。
ずいぶんと親しげに話しているが、さっき貴族様って言ってたっけ。
そんな時にルーク君のお腹がぐーっと鳴る。
「なんだ? ルークも食べるか? 多めに買ったんだよ。よかったらおねーさんも食べて下さい」
確かに食欲旺盛な少年二人で食べるにしても多い量のお肉が大きな皿に山のように乗っていた。
ロアーノのお誘いに乗り、私とルーク君は近くにあった食事をするスペースへ行く。テーブルと机と屋根だけがある場所は食事時ということもあって人はすでに多くおり、身体を寄せ合うようにして料理を食べていた。
ちょうど4人が座れる場所が隅の方にあり、グリムが素早く場所を取ってくれたおかげで何とか座ることが出来た。
「ゆいさん、すみません。こんな場所で食事なんて」
「え、何で?」
「あまり綺麗な場所じゃないから……」
きょろきょろと辺りを見ていたのでルーク君に嫌がっていると勘違いをさせたのかもしれない。
確かに衛生的なことをいえば綺麗な場所とは言えないが、そんなことは全然気にしていない。むしろ周りを観察することに夢中になってきょろきょろしていただけだった。まだ日は落ちていないがお酒を飲んで歌っているおじさんがいたり、がやがやと賑やかなのが楽しそうでつい見てしまう。居酒屋のような雰囲気に私までお酒が少しほしくなるくらいだよ。
「やだな、私そんなの気にしないよ。賑やかでみんな楽しそう」
ふふふと笑うとルーク君がほっと安心したような顔をした。
それじゃあ食べようとグリムがテーブルの真ん中にお肉の乗った皿をドンと置く。
箸やフォークで食べるわけじゃなく大きな爪楊枝みたいなのを刺して食べるらしい。一人一本ずつ持って一斉に口にお肉を頬張るとじゅわっと口の中に肉の旨味が広がる。豚肉っぽいかな?
何か前にルーク君に食べさせてもらったお店の味付けに似ている。このお肉にかかっている赤いタレを使った味付けがこちらの世界では一般的なのかしら。
「実はこの料理を買った屋台、前に食べた巨鳥の料理を作ってもらったおじさんの屋台なんです。」
「道理で! 味付けが似てるなって思った。うーん、すごく美味しい。前も思ったんだけど、この味付けには何を使っているの?」
「え、おねーさん、レミィ知らないのか?」
ロアーノが驚いた顔をする。
どうやらこのレミィはこの世界では誰でも知っている調味料らしい。日本でいう醤油のようなもののようだ。
「ロアーノ、ゆいさんに失礼な言い方をするな」
「いや、だってレミィを知らないって言うからちょっと驚いた。知らない人もいるんだなって」
「ごめんなさい。私遠い場所に住んでいて最近王都に来たばかりだから……よく分からないことがたくさんあるみたい」
遠い場所というか異世界なんだけどね。
「へー、遠くに? どんな場所に住んでいたか聞いても?」
「何もない田舎ですよ」
「田舎に住んでいたとは思えないけど……なぁ、グリム」
無言で聞いていたグリムが小さく頷く。
余計なことを言ってこれ以上住んでいる場所に興味を持たれても困るので苦笑いしながら二口目のお肉を食べ、「おしゃべりしているとせっかくのお肉が冷めちゃうよ」と一言。
食欲旺盛な少年達は、そうだと納得してお肉を食べ始めた。
「それでずーっと気になっていたんだけど二人はどういう関係? 姉弟じゃなさそうだし、恋人ですか?」
食べていたお肉を危うくのどに詰まらせてしまうところだった。
咽る私の背中をびっくりしたルーク君が「大丈夫ですか」と撫でさする。
「び、びっくりした……私とルーク君は、えっと、隣人?」
私達の関係をうまく説明出来ない。しかし隣人であることは間違いない。
ルーク君もこくこくと頷いた。しかし私の返事にロアーノは納得していないようだ。
「手を繋いで歩いてたよね?」
「それは私が王都に来たばかりで……ルーク君に近所を案内してもらっていたんだけど、あまりにふらふらしていたから、それで……」
「俺が勝手にゆいさんの手を繋いだんだ。もういいだろ」
返事に困っていた私を助けようとルーク君が間に入ってくれた。
「えー? もっと聞きたいんだけど」と言うロアーノを無視してルーク君とグリムは食事を続ける。
もう私とロアーノは満腹だったので二人が完食するのを待つ。それにしてもよく野菜や米もないのに肉だけをあれだけ食べられるものだ。いくら美味しくても胃もたれを起こしそうなレベルだ。
ルーク君だけじゃなくグリムも大食漢でみるみるお肉が減っていく。
「そういやおねーさんは学校交流大会に来る? ルークがメンバーに選抜された大会で、平民から選ばれたって学校中その話題でもちきりなんだけど」
そうだ! こちらの世界に来れるようになった今の私なら学校交流大会を見に行けるのだ。
「うん、そのつもりだけど」
「ほ、本当ですか!?」
お肉を食べていたルーク君が大きな声を出す。
その声の大きさに私とグリムとロアーノは驚いてしまった。はっと我に返ったルーク君が恥ずかしそうな顔になり、「本当に?」と繰り返す。
「うん、約束したじゃない」
「はい」と返事をしたルーク君は照れ笑いのような笑みを浮かべ、いそいそとお肉を食べ始めた。
「ねぇグリム。なーんか僕達、邪魔者じゃない?」
ロアーノに同意見とグリムは大きく頷いてお肉を食べるスピードを上げた。あっという間にお肉を食べ終わり、それじゃあ次は学校交流大会の時に会いましょうと二人はそそくさ帰っていった。




