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ルーク君の世界では肌の白い人は身分が高い貴族の女性ばかりで、私のような白い肌は平民ではまず見ないという。ルーク君が知っている貴族の女性といえば騎士学校に通う生徒くらいだが、私はその子達よりも更に肌が白いと言われた。
なるほど、だからソフトクリームか。ルーク君に深い意味などないのだろうが、この年で年下の男の子にソフトクリームに例えられるのは何となく気恥ずかしさがある。
それにしても騎士を目指して鍛練する生徒の中に女の子がいることに驚いた。
「女の子も騎士学校に通うの?」
「はい。男でも女でも魔力さえあればアイゼングレーグ騎士学校に通うことが出来ます。貴族も平民も、俺みたいな孤児でも」
「……そうなんだ」
「魔力がある人間が騎士学校に通うのは義務なんです。国を守り戦う力を磨くために王族だって騎士学校に通います。俺は会ったことないんですけど数年前は第四王子が学校に通っていたとか……ちなみに、昨日話した俺を殴ったクラスメートも実は女です」
「えっ? そうだったの?」
「その子は上級貴族の娘でルビーメイっていうんですけど……俺、彼女にすごい嫌われてて。彼女は今回の学校交流大会の選出候補生徒だったんです。それなのに選ばれたのが自分でも、ましてや貴族じゃない俺だったのがどうしても気にくわないらしいです」
名誉ある交流戦の代表メンバーに平民の生徒であるルーク君が選ばれたことは前代未聞だったらしく生徒達の中からは不満の声が多く上がったそうだ。しかし「優秀な生徒が選ばれるべき」と学校長の鶴の一声でルーク君が学校の代表として交流戦に参加することが決まったとのこと。
学校長は名の知れた元騎士団長で発言力は大きく、生徒も教師も黙らせるだけの力があった。
「俺は自分がやれることを全力でやります」
「うん、そうだね。ルーク君なら大丈夫よ。頑張れ!」
ルーク君の言葉は真っ直ぐで、ひた向きな姿は夢も希望もない私には眩し過ぎる。ルーク君の努力はきっと報われると私は信じたい。
その日は遅くまで二人でお互いの話をした。
いつもは聞き役になることが多いルーク君からも質問され私は一つ一つ答えていく。私自身のことだったりこちらの世界のことだったりと質問内容は色々だったが、答えられる限り答えた。私もルーク君のことや向こうの世界のこと等聞きたいことはいっぱいあったので話が尽きることはない。ちょっとした無言も気にならず目が合うとどちらからともなく微笑む。二人で話している時間はとても穏やかで居心地がよい。私は更にルーク君が好きになった。
そういえば、ルーク君とこんなに長く一緒にいておしゃべりをしたのは初めてかもしれない。いつもは食事の時間にコミュニケーションを取るくらいで、後は勉強をしているルーク君の邪魔にならないように静かに見守るというのが日常的な流れだ。今日は時間に余裕があったので会話に夢中になりすぎていたらしく気が付けば日が暮れ始めている。徐々に窓から入る光が翳り部屋が少しずつ寒くなり、夜がすぐそこまできているのを感じた。
「あの、今日のご飯は俺に任せてもらえませんか?」
ルーク君は一度窓の外を見てから慌てた顔で立ち上がる。
「……え、いいの?」
それじゃあちょっと行ってきますとルーク君は部屋を駆け出して行ってしまった。ぽつんと部屋に残されてしまったので、窓に近より外を見るとすごいスピードで路地を走るルーク君の後ろ姿が見えた。
あっという間に見えなくなったと思ったら今度は布のような何かを両手に抱えて戻ってくる。一体何を大事そうに抱えているのだろうかと興味が出た私は窓に顔を近付けて外を見下ろすタイミングでルーク君と目が合い、真剣な顔をして走っていたルーク君の表情が柔らかいものに変化する。一度手を振ってすぐに私が待つ部屋に戻ってきた。
布に包まれていたものは鍋だった。
「これ、最近王都で人気の屋台の料理なんですけど、前に一度だけ食べたことがあって……」
美味しそうな匂いだ。
鍋を覗き込むとクレープのような薄い黄色の生地で野菜とお肉をくるくると巻いて包んでいる。ボリュームのあるそれが六個並んでいた。
食欲のそそるこの匂いは何だろう。スパイシーな匂いに、大きく切り分けられているお肉の存在感がすごい。
「わぁ、すごく美味しそう!」
「本当に美味しいんですよ。実はこれ無料で作ってもらえたんです」
「え? どうして?」
「実はこれ俺が倒した巨鳥の肉なんです。実技試験で現れたって昨日話したじゃないですか」
「ルーク君を怪我させたっていう魔獣? これって魔獣のお肉なの!?」
「そうです! すごく美味しいんですよ。倒した巨鳥の肉をそこの屋台のおやじさんにあげたんです。その御礼に無料で作ってやるっておやじさんが言ってくれて……」
「そうなんだ」
魔獣のお肉というのが正直気になったが、ルーク君に期待のこもったキラキラした顔で見つめられたら食べるのを拒否するなんて出来ない。鍋から一つ手に取りじっと見つめてくるルーク君の前で大きな巨鳥の肉にかぶりついた。
蒸し焼きにされた巨鳥の肉は驚くほど柔らかく、そしてジューシーだった。お肉には赤いタレがかかっており、最初はフルーツのような不思議な甘みを感じたのだがあとからピリッと辛さが続く。千切りになったキャベツのような野菜と一緒にたべると少し濃いめに感じたタレも丁度良い。
「わー、美味しい。すごく美味しいよ」
魔獣のお肉だと聞いて身構えてしまったがそんな必要なかった。癖のないお肉は上質で鶏肉と変わらない美味しさだ。これでもかとたくさん包まれているお肉と野菜の割合が合わない気もするが、一つでお腹いっぱいになってしまいそうなボリュームがあるので食べている方と反対側から溢さないように気を付けなら食べ進めているとルーク君と視線が合った。
口いっぱいにお肉を頬張っていたため「何?」とも聞けず、もぐもぐと口を動かしながら首を傾げる。
「俺はゆいさんの作るご飯が一番好きですけど、俺の世界の美味しいものをゆいさんに食べてもらいたかったんです」
何て良い子。
食事も美味しいが、それよりもルーク君の優しさが胸に染みる。口に入っていたものを飲み込んでから「ありがとう」と微笑んだ。
「これにマヨネーズをかけたら美味しいと思いませんか?」
にやっと笑ったルーク君につられて私の笑みも深まる。
私も同じ事を考えていたのだ。このままでも充分美味しいが、マヨネーズを少しかければ更に美味しくなりそう。
「ふふふ、今マヨネーズ持ってくるね。あ、スープも飲みたくない? わかめスープだったらすぐ持ってこれるよ……あ、寒くなってきたから暖かい格好してて。すぐにお湯沸かしてくるから」
私とルーク君の部屋が繋がる穴を通って自分の部屋に戻り、電気毛布をルーク君に手渡してから小走りで台所へと向かった。




