表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/5

第四話:『星の見えない夜の、光のような夜明け』

1. ハルの視点

季節がひとつ巡る頃、僕は一つの短編小説を書き終えた。

かつてのような華やかな文学賞ではない。WEBの片隅に投稿した、文字通り「たった一人」に向けて書いたささやかな物語だ。

だけど、その反響は僕の予想を遥かに超えていた。

『心が救われた』『不器用だけど、一番大切な人と読みたくなった』

画面の向こうから届く温かい読者の声。かつて信じることが怖くなって逃げ出していた僕の言葉が、確かに誰かの心に届き始めていた。

それでも、僕にとって一番大切なのは、世界中でたった一人の評価だ。

「アキ、これ」

深夜二時。いつものように疲れ果てて帰ってきたアキに、僕は印刷したばかりの原稿を手渡した。

「今あなたに伝えられるだろうか。不器用な僕だけど、ちゃんとあなたに届くように」

アキは目を丸くしながらも、嬉しそうに原稿を受け取り、いつもの狭いコタツの席に腰掛けた。

ページをめくる彼女の横顔を、僕は祈るような気持ちで見つめる。

それは、激務に擦り切れる彼女を救うための物語。

何気ない日々の中にあった僕たちの幸せと、彼女が僕にくれた生きる力。そして、今度は僕がその手を握りしめて、一緒に未来へ歩いていくという、僕からの不器用なラブレターだった。

原稿の最後のページがめくられたとき、アキの目からポロポロと大きな涙がこぼれ落ちた。

けれど、それはあの夜の壊れそうな涙じゃない。

僕がずっとずっと焦がれていた、あのひまわりのような笑顔だった。

2. アキの視点

ハルから手渡された原稿を読み進めるうちに、私の胸は温かい何かでいっぱいになっていった。

そこには、私たちが過ごした何気ない日々が、ハルの優しい言葉で鮮やかに描かれていた。

半分こしたコンビニのアイス。

私が隠していた仕事の辛さ。

そして、あの夜、ハルが私を抱きしめてくれた時の、彼の胸の鼓動まで。

「……ずるいよ、ハル。こんなの、泣いちゃうじゃん」

涙で文字が滲んでしまう。

ハルは照れくさそうに頭を掻きながら、でも、まっすぐに私の目を見て言った。

「アキが描いてくれた未来の落書き……俺、本気で叶えようと思ってるから。だから、もう一人で抱え込むな。どんな明日が来ても、俺が隣にいるから」

その言葉を聞いた瞬間、私の心に深く居座っていた「明日への恐怖」が、嘘のように消えていくのが分かった。

都会の空は相変わらず曇っていて、今日も星は見えない。

けれど、もう寂しくなんてない。私の目の前には、世界で一番頼もしい、私だけの光があるから。

「うん! 私も、ずっとずっと、ハルの隣にいるよ」

ハルが手を伸ばし、私の手をぎゅっと強く握りしめてくれた。

その手の温もりを感じながら、私たちは声を合わせて笑った。

通り過ぎていく何気ない日々の中に、私たちの幸せは確かにあった。

そしてこれから始まる新しい日々の中にも、それはきっと、形を変えて存在し続ける。

信じられる。僕らはまたここで、何度でも笑えるんだと。

―― おわり ――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ