限界集落のガレージから、異世界ネオバンクを創設せよ
「……は? 銀行を、作るだと?」
深夜、アルトの家のボロ長屋。ランプの灯りの下、二組の親子が顔を突き合わせていた。
アルトとクロエの必死の説教(という名のプレゼン)によって、ついに親父たちを「秘密の事業」に引きずり出すことに成功したのだ。
「そうだ。今の王立ギルド銀行は手数料が高すぎるし、俺たちみたいな低所得層には金を貸さない。魔王軍のサイバー攻撃でセキュリティもガバガバだ。だから、俺たちの『暗号通貨』と『分散型台帳』をベースにした、全く新しい銀行を作るんだよ」
8歳のアルトが、自作のキメラ魔導PCを叩きながら淡々と語る。その横ではクロエが、加熱する魔石に「物理水冷(井戸水)」をぶっかけながら頷いている。
「でもな、アルト。銀行なんて免許もなきゃ信用もねえ。誰が俺たちみたいな貧乏人に金を預けるんだ?」
アルトの親父が、不安そうに首を振る。
「だから、親父たちの出番なんだ」
俺は身を乗り出した。
「親父はこれまで、この限界集落で長年、ミスリル鉱山への資材調達や日雇いギルドの物資管理をやってきただろ? どの商会が安くて、どこにポーションや食料が足りてないか、その現場のデータは宝の山だ。そしてクロエのパパ……元・凄腕冒険者のコネクションがあれば、魔王軍のフルリモート化に馴染めず廃業した『現場派』の冒険者たちを、独自の『騎士団(セキュリティ部門)』として再雇用できる」
アルトの親父が「物流・データ部門」、クロエの親父が「防犯・実働部門」。
そして俺が「システム・運用」、クロエが「冷却・オペレーション」。
家族経営の、だが最強の役割分担が完成する。
「この銀行の名前は『ネオ・フロンティア・ファイナンス』。王国の法定通貨がインフレで紙屑になる前に、俺たちの暗号通貨で経済圏を作る。利息はギルドの半分以下、だけど審査は俺のAI(魔導演算)で一瞬だ」
クロエの親父が、鋭い目つきでアルトを見つめた。
「……ガキの遊びにしちゃ、話がデカすぎる。だが、俺たちみたいな『詰んでる』連中に、失うものなんて最初からねえか」
「ああ。一億ゴールドの借金を返すには、これくらいの博打を打たなきゃ始まらないんだ」
アルトの言葉に、両家の親父たちが力強く頷いた。
翌日。
限界ニュータウンの片隅にある壊れかけの納屋に、一枚の看板が掲げられた。
『ネオ・フロンティア・バンク:本日より新規口座開設キャンペーン。先着100名にスライムゼリー1年分進呈』
異世界の金融システムに、一石どころか巨大な隕石を投じる「新興銀行」の快進撃が、ここから始まる。




