3歳児、親父の『異世界FX(レバレッジ1000倍)』爆死に絶望する
あれから3年。
俺ことアルトは、無事に3歳の誕生日を迎えた。
「ましゅー、おいちいね!」なんて幼児語を器用に操りながら、裏では密かに魔導板で複利を回し続ける日々。順調に資産は増え、限界ニュータウンでの生活も少しはマシになる……はずだった。
ある日の夕方。
親父が、この世の終わりのような顔をして帰ってきた。その手には、震える魔導板が握られている。
「あ、あなた……? どうしたの、そんな顔して。まさかまたリストラ……?」
母さんが不安そうに声をかけると、親父は膝から崩れ落ち、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「ごめん……母さん……アルト……。俺、とんでもないことをしちまった……」
嫌な予感しかしない。俺の【せいしん】ステータスが激しくアラートを鳴らしている。
俺はトテトテと歩み寄り、親父が落とした魔導板を覗き込んだ。
そこに表示されていたのは、真っ赤な文字で書かれた『強制ロスカット執行のお知らせ』。
そして、請求金額の欄には――
【 追証(借入残高): 100,000,000 G(一億ゴールド) 】
「は……?」
思わず幼児のフリを忘れ、低い声が漏れてしまった。
一億!? なんだこの天文学的な数字は!
親父の泣き言を翻訳すると、こうだ。
最近ギルドで流行っていた『魔石FX(外国魔石証拠金取引)』というハイリスク・ハイリターンの投機に手を出したらしい。しかも、俺がコツコツ貯めた資産を勝手に「証拠金」として突っ込み、上限いっぱいの【レバレッジ1000倍】をかけて大勝負に出た。
そこへ運悪く、魔王軍の広報アカウントが「来月から魔石の輸出規制を検討中」というフェイクニュースを魔導SNSにポスト。
結果、相場は一瞬で大暴落を起こし、親父のポジションは消し飛び、莫大な借金だけが残ったというわけだ。
「ギルドの証券担当が、『今なら絶対儲かる』って言うから……っ! 家族に楽をさせてやりたかったんだぁぁっ!」
「あなたあああああっ!!」
抱き合って泣き叫ぶ両親。
俺は静かに魔導板の画面をスワイプした。
……バカ野郎。投資と投機は違うって、前世の金融庁も口を酸っぱくして言ってただろ。
しかも、家族名義の口座を勝手に担保にするなんて、金融リテラシーの欠如どころの騒ぎじゃない。これはもう、魔王軍のサイバー攻撃なんかよりよっぽどタチが悪い、身内からの核攻撃だ。
一億ゴールド。
普通の冒険者が一生かけても稼げない狂気の額。
俺のアビリティ『FP1級』をもってしても、即死レベルの特大デバフである。
「ぱ、ぱぱ……めっ、だぞっ!(ふざけんなクソ親父!! お前のせいで俺の異世界ライフ、ガチのハードモードに突入したじゃねえか!!)」
俺の愛らしいお説教は、一億ゴールドという絶望の前に、あまりにも無力だった。




