深夜のベビーベッド・デイトレーダー
両親が寝静まった深夜。俺はベビーベッドの柵をすり抜け、フローリングを這い進んで居間の机によじ登った。
狙いは一つ。親父がいつもため息をつきながら眺めている『魔導板』だ。
こいつは魔力で動く便利な情報端末で、ギルドのクエスト情報から王国の物価相場まで確認できる。
「ふしゅー……(よし、親父が寝落ちした隙を狙ったから、ロックは解除されたままだな)」
俺はプニプニの指先で画面をタップし、ギルドの取引所ネットワークにアクセスした。
画面には、様々なアイテムや素材のチャートがズラリと並んでいる。
この世界の経済は今、魔王軍のフルリモート化の影響で歪みきっている。特に、勇者たちが外に出なくなったせいで、低級モンスターの素材価格が異常な乱高下を起こしていた。
「あーう!(これだ!『スライムゼリー』の価格が不自然に高騰してる。明日には必ず暴落するはずだ。ここで先物取引でショート(空売り)を仕掛ければ……!)」
俺のカンストした【せいしん】と、アビリティ『FP1級』が、相場の歪みを正確に弾き出していた。
さらに『NISA枠(非課税投資枠)拡張』のおかげで、この魔導板経由の小口取引なら税金が一切かからない。王国のガバガバな税制システムに感謝だ。
ポチッ。ポチッ。
俺は夜泣きもせずに、画面をタップし続けた。ひたすら数字が増えていくのを見るのは、なんだか前世でやり込んでいたクリッカーゲームみたいで嫌いじゃない。無心で利益を積み上げていく。
数時間後。
勝手に運用に回した親父のなけなしのヘソクリ(銀貨5枚)は、見事なトレードの連続によって、あっという間に金貨1枚にまで膨れ上がっていた。
「だぁ!(よし、今日のところはこれくらいで利確(利益確定)しといてやるか。複利の力ってすげー!)」
証拠隠滅のために履歴を消し、俺は再びベビーベッドへと潜り込んだ。
翌朝。
「あれ? なんだかギルドの口座残高が増えてる……? まさか、寝ている間に女神様がボーナスを!?」
と、本気で寝ぼけたことを言う親父を横目に、俺はすまし顔で朝のミルクを要求した。
まずはこの限界ニュータウンから抜け出し、家計を安定させるための資金作り。
0歳児トレーダーの戦いは、まだ始まったばかりだ。




