国境を越えるデジタルの鎖(チェーン)と、想定外のレベルアップ
ネオ・フロンティア・バンクの噂は、風に乗って国境を越えた。
この「ずさんな王国」の隣には、商業を重んじる『自由都市同盟』がある。あちらの商人たちもまた、王国の無駄に高い関税と、魔王軍のサイバー攻撃でいつ止まるか分からない旧世代の送金魔法に嫌気が差していた。
「……アルト、同盟の最大手商会から直接コンタクトがあったわ。ネオ・コインを国際貿易の決済に使いたいって」
クロエが、いつもの「物理水冷」の井戸水でキンキンに冷やした『魔導コーラ(赤ラベル・糖分たっぷり)』を俺に差し出しながら言った。
「国際決済か。いいぜ、王国を通さなきゃ関税はゼロ、手数料もうちが1%抜くだけで済む。双方にメリットしかない」
取引は一瞬だった。
自作PCの青い光が激しく明滅し、同盟からの莫大な「外貨」がネオ・コインに変換され、ネットワークを駆け抜ける。
一回の取引額は、これまで村の冒険者たちがチマチマ稼いできた額の数千倍。
ピロリンッ! ピロリンッ! ピロリンッ!
「だぁ!(よし、手数料収入だけで、一気に300万ゴールド利確だ!)」
俺は即座にその利益を王立ギルド銀行の『親父の負債口座』へ自動送金した。
【借入残高:96,850,000 G】
ついに、一億の大台を切って「9000万台」に突入した。目に見えて数字が減るこの感覚、最高にハイになれるな。
と、その時。
視界の端で、レトロRPG風のステータスウィンドウが激しく点滅を始めた。
ファンファーレのような音が頭の中で鳴り響く。
【レベルが 15 に上がった!】
【ちから、すばやさが 2 上がった!】
【まりょくが 10 上がった!】
【せいしんが 20 上がった!】
【新規アビリティ:『国際公認会計士(異世界版)』を修得!】
「……お? レベルが跳ね上がったな」
そういえば、この世界は「何らかの達成」によって経験値が入る仕組みだった。
魔物を倒すだけがレベルアップじゃない。莫大な資金を動かし、経済を回すこともまた、この世界の理においては「強大な敵(インフレや負債)との戦闘」と見なされているらしい。
思えば、3歳の頃から夜な夜なデイトレに励み、8歳で銀行を立ち上げ、親父の借金をコツコツ返してきた。そのすべての行動が、実は微々たる経験値として積み重なっていたのだ。
「アルト、どうしたの? 急に顔がスッキリしたみたいだけど」
クロエが不思議そうに覗き込んでくる。
「いや、なんでもない。……少し、世界が広く見えるようになっただけだ」
俺はレベルアップで上昇した【まりょく】を指先に込め、キーボードを叩く速度をさらに上げた。
レベルが上がれば、処理できる計算量も増える。
この調子で大口の国際取引を重ね、レベルを上げ続ければ、一億ゴールドの完済もそう遠い未来じゃない。
ずさんな王国が「なんか最近、国境付近の活気が凄いな?」と首を傾げている間に、俺たちはデジタルの鎖で世界を繋ぎ、誰も無視できない巨万の富を築きつつあった。




