辺境伯の密使と、跳ね上がるレベル
「アルト、ゴードンさんがとんでもない客を連れてきたわよ!」
相変わらずスライムの干物をかじりながら、ボロ納屋のサーバー(キメラ魔導PC)を弄っていた俺のところに、クロエが血相を変えて飛び込んできた。
その後ろには、いつも通りのゴードンさんと……明らかに「ただ者ではない」オーラを放つ、全身を高級な漆黒の革鎧で包んだ騎士が立っていた。
「久しぶりだな、アルト。儂の命を救ってくれたポーションの代金、有効に活用させてもらっておるよ」
ゴードンさんが快活に笑い、隣の騎士を紹介する。
「こちらは儂の昔の戦友でな。今は辺境伯様の直属……影の相談役を務めておられる、バッカス殿だ」
バッカスと呼ばれた騎士は、低く、重厚な声で言った。
「……話は聞いている。王立銀行を通さず、独自の価値基準で国際決済を行う『子供銀行』があるとな」
「へえ、辺境伯様ともあろうお方が、うちみたいな『ままごと』に何の御用で?」
俺はあえて不敵に笑い、自作PCのモニターを見せた。
「……背に腹は代えられんのだ。中央のインフレはもう限界だ。王国が発行する金貨の価値が落ちすぎて、隣国から最新の魔導防具を買い付けようにも、提示された額が軍事予算の三倍を超えた。このままでは国境の守りが崩壊する」
バッカスは、テーブルに一通の重厚な書簡を置いた。
「辺境伯様は、隣国の有力者たちと『ネオ・コイン』を通じた直接貿易を望んでおられる。王国のずさんな税関を通さず、価値の安定した君のコインで、軍需物資を調達したいと」
きた。一国の軍事予算が、俺のシステムを流れる。
これはもう、村の経済圏なんてレベルじゃない。「国家の裏帳簿」そのものだ。
「……いいでしょう。ただし、辺境伯領内でのネオ・コインの完全流通と、俺たちの銀行への『不干渉』を約束してください」
「約束しよう。辺境伯様は、中央の無能な役人より、君の演算能力を信じておられる」
契約が成立した瞬間、俺の自作PCが、これまで聞いたこともないような高音の駆動音を上げた。
国境を越え、膨大な「辺境伯領の軍事予算」がネオ・コインへと変換され、隣国の商会へと流れていく。
そのトランザクション(取引)の一つ一つが、俺の脳内に直接流れ込んでくるような感覚。
ピピピピピピピ……ドォォォォン!!
【レベルが 20 に上がった!】
【まりょく、せいしんが大幅に上昇!】
【新規アビリティ:『連結決算・魔導連結』を修得!】
【特殊効果:演算速度が 300% 上昇し、魔力によるサーバーの直接冷却が可能になりました】
「あー……(頭が、軽い……!)」
レベル20。これまでの倍以上の計算が、瞬時に処理できる。
上がりまくった魔力を指先から流し込むと、暴熱していた魔石が一瞬で適温まで冷え切った。もうクロエが井戸水を運ぶ必要もないくらいの「魔力冷却」だ。
「アルト、顔つきがまた変わったわね……。まるで、何万もの数字を同時に操ってるみたい」
クロエが驚きに目を見開く。
俺は無言で画面上の数字を叩いた。
今回の手数料収入、そして辺境伯との提携によるネオ・コインの価値上昇に伴う含み益……。
【借入残高:89,850,000 G】
「だぁ!(ついに8000万台に突入したぞ!)」
一億あった借金も、ようやく一割を返済した。
生活はいまだにこのボロ納屋で、夕飯もスライムの干物だが、俺たちの手元を流れる金の流れは、もはや王国一つを飲み込みかねない巨大な大河になりつつあった。
「よし、親父、クロエのパパ。辺境伯からの『極秘輸送』の物流網、急いで構築してくれ。ここからは、国を動かすシノギだぜ」




