冷めたカクテルと見知らぬ視線
1
北新地から京橋へと向かうタクシーの車内は、奇妙な静寂に包まれていた。
窓の外を流れるのは、ネオンの光が歪んだ街並みと、家路を急ぐ人々の影。美咲は助手席の藤沢の横顔を、後部座席からじっと見つめていた。
藤沢はスマートフォンで京橋駅周辺の地図を確認しながら、運転手に的確なルートを指示している。その横顔には、さっきまで小料理屋で見せていた穏やかな笑みは一切なく、冷徹とも言えるほどの冷静さが宿っていた。
「奥村さん」
藤沢が振り返らずに、低い、しかしよく通る声で言った。
「はい」
「香織さんが逃げ込んだコンビニは、駅の北口側にあるチェーン店で間違いないですね」
「ええ、連絡をもらった限りでは、そこです。商店街の入り口の近くにある……」
美咲は膝の上でバッグの手をきつく握りしめた。手のひらには、じっとりと冷たい汗がにじんでいる。
「分かりました。僕が先に行きます。奥村さんは一歩引いた位置にいてください。相手が逆上した際、女性二人が標的になるのが一番危険です」
「でも、藤沢さんにそこまでご迷惑をおかけするわけには……」
「ビジネスでもプライベートでも、危機管理の基本は同じです」
藤沢はフッと声を和らげ、バックミラー越しに美咲と目を合わせた。その瞳には、恐怖を完全に打ち消すような絶対的な「余裕」があった。
「それに、僕が自ら首を突っ込んだんです。奥村さんの大切なご友人は、僕にとっても守るべき対象ですから」
タクシーが京橋の繁華街へと滑り込む。歓楽街特有の、雑多で混沌としたエネルギーが車内まで漏れてくるようだった。
車が目的のコンビニの少し手前で停車する。藤沢がスマートに千円札を数枚支払い、「お釣りは結構です」と告げてドアを開けた。
美咲が車を降りると、ツンとした夜の匂いとともに、独特の緊張感が肌を刺した。
少し離れた場所からコンビニのガラス張りの店内が見える。イートインスペースのカウンター席に、背中を丸めて座り、必死にスマートフォンを握りしめている香織の姿が見えた。その表情は蒼白で、心細さに震えているのが遠目からでも分かった。
そして、その店の外。
自動ドアから数メートル離れた街灯の影に、一人の男が立っていた。
山下だ。
彼はポケットに両手を突っ込み、時折コンビニの店内を覗き込んでは、スマートフォンの画面を見てニヤニヤと笑っている。その姿は、獲物が力尽きるのを待つハイエナのようで、美咲は生理的な嫌悪感と恐怖で背筋が凍りついた。
「あの男ですね」
藤沢が静かに言った。美咲が小さく頷くのを確認すると、彼は迷いのない足取りで山下の方へと歩き出した。
「あ、藤沢さん――」
美咲の制止の声が届く前に、藤沢は山下のすぐ目の前で足を止めていた。
「こんばんは、山下さん」
藤沢の声は、驚くほど爽やかで、まるで古い友人に声をかけるかのようだった。
山下がビクッと肩を揺らし、不機嫌そうに藤沢を見上げた。
「……あ? 誰だよお前」
「フロンティア・デザインの藤沢と申します。そちらのコンビニの中にいる香織さんの、仕事の共同経営者です」
藤沢は懐から名刺入れを取り出し、完璧な角度で名刺を差し出した。それは、夜の街の不審者を相手にしているとは思えないほど、洗練されたビジネスの所作だった。
「パートナーぇ? 何だよそれ。今、俺、香織ちゃんと待ち合わせしてんだけど。邪魔すんなよ」
山下は名刺を受け取ろうともせず、吐き捨てるように言った。その目は少し充血しており、アルコールの臭いがこちらまで漂ってくる。
藤沢は差し出した名刺を美しく引っ込めると、少しも怯むことなく、むしろ憐れむような笑みを浮かべた。
「待ち合わせ、ですか。それは奇妙ですね。香織さんは今、僕のオフィスとの合同プロジェクトの件で、大変なパニック状態になって私に泣きついてこられたのですが。あなたの『熱心すぎるお誘い』のせいで、業務に甚大な支障が出ている、と」
「はあ? 何言ってんの? 俺たちは普通に仲良くLINEしてて――」
「山下さん」
藤沢の声のトーンが、一段低くなった。それは、相手の言葉を完全に遮断する、圧倒的な威圧感を含んでいた。
「あなたのスマートフォンに入っている送信履歴、そして香織さんが保存しているスクリーンショット。これらが法的にどう解釈されるか、ご存知ですか? すでにこちらの顧問弁護士には共有済みです。これ以上、彼女の行動を制限し、精神的苦痛を与え続けるのであれば、明日付けで正式な警告書をあなたの勤務先、ならびに法的機関へ提出することになりますが、よろしいですね?」
藤沢は嘘を言っていた。弁護士への共有など、この短時間でできているはずがない。しかし、その話し方、表情、そして圧倒的な社会的ステータスを感じさせる佇まいが、その言葉に絶対的な「真実味」を与えていた。
山下の顔から、急速に血の気が引いていくのが分かった。彼は不動産会社勤務だ。コンプライアンスや社会的信用を失うことが何を意味するか、分からないほど愚かではなかった。
「……チッ、何なんだよ、まじで。ただの親切じゃんかよ」
山下は悪態をつきながらも、藤沢の冷徹な視線に耐えかねたように、一歩、また一歩と後退りし始めた。
「今後、香織さん、ならびに奥村美咲さんに対していかなる形でも接触を試みた場合、即座に対処いたします。ご理解いただけましたね」
藤沢が最後の一押しとして、眼鏡の奥の目を鋭く光らせる。
山下はそれ以上何も言えず、逃げるように踵を返し、京橋の雑踏の中へと消えていった。その背中は、さっきまでの傲慢さが嘘のように小さく見えた。
美咲は、しばらく息をすることすら忘れていた。
あまりにも鮮やかで、誰も傷つけず、しかし決定的な幕引き。
「奥村さん、もう大丈夫です。香織さんを呼びましょう」
藤沢がいつもの穏やかな笑顔に戻り、美咲を振り返ったとき、美咲の胸の中には、言葉にできないほどの激しい感情が渦巻いていた。
2
「……本当に、ありがとうございました……!」
コンビニのイートインから救出された香織は、近くの静かな喫茶店に入るなり、藤沢に向かって何度も何度も頭を下げた。手元に置かれた温かいココアの湯気が、彼女の強張った横顔を少しずつ和らげていく。
「いいえ、怪我がなくて本当に良かったです。山下さんも、おそらくもう二度と近づいてこないでしょう」
藤沢はブレンドコーヒーのカップを傾けながら、まるですれ違いざまに道を教えただけのような軽やかさで言った。
美咲は香織の隣に座り、その冷え切った手をずっと握りしめていた。
「香織、本当に怖かったよね。もっと早く気づいてあげられなくてごめん」
「ううん、美咲のせいじゃないよ……。私があの時、はっきり断れなかったから……。でも、藤沢さんが来てくださらなかったら、私、今頃どうなってたか……」
香織の瞳に、再び涙がじわりと浮かぶ。
藤沢はポケットから清潔なハンカチを取り出し、そっと香織の前に差し出した。
「自分を責める必要はありませんよ、香織さん。ああいうタイプの人間は、親切や大人の対応を都合よく歪めて受け取るんです。あなたは何も悪くない」
その言葉は、傷つき、怯えていた香織の心に、一番欲しかった救いとして染み込んでいくようだった。
香織はハンカチを受け取り、目元を拭いながら、藤沢を真っ直ぐに見つめた。
その時の香織の瞳の温度が、単なる「恩人への感謝」から、別の何かへと変化した瞬間を、美咲は見逃さなかった。
女性プレスのプロとして、多くの人の心を動かす仕事をしてきた香織だ。彼女が人の魅力に対してどれほど敏感か、美咲は誰よりも知っている。香織の頬に、恐怖とは違う微かな赤みが差していくのを見て、美咲の胸の奥が、チクリと痛んだ。
「あの、藤沢さん」
香織が少し声を震わせながら言った。
「このお礼、どうしてもさせてください。こんな形で助けていただいて、お食事の邪魔までしてしまって……。今度、改めて私に、美味しいお店を紹介させていただけませんか?」
藤沢は一瞬、困ったように眉を下げたが、すぐに魅力的な笑みを浮かべた。
「お礼なんて大層なものは必要ありませんが……そうですね、もし香織さんが元気になられたら、三人で美味しいものでも食べに行きましょう。奥村さんとも、今回のプロジェクトの話をもっと進めたいですし」
藤沢は、あくまで「三人で」と言った。その絶妙な距離感の取り方もまた、大人の男としての完璧なマナーだった。
「はい! ぜひ、三人で!」
香織が嬉しそうに声を弾ませる。
美咲はその横で、ただ「うん、そうだね」と微笑むことしかできなかった。
藤沢に対する仄暗い憧れと、親友の命拾いに対する安堵。そして、その二つの感情の狭間に生じた、名前のない焦燥感。
完璧なバランスを誇っていた美咲と香織の二人の世界に、藤沢というあまりにも巨大で魅力的な引力を持った星が、完全に軌道に加わった夜だった。
3
それからの一ヶ月、三人の関係は、驚くほどのスピードで親密さを増していった。
山下からの連絡は、藤沢の警告通り完全に途絶え、香織の日常には平和が戻っていた。しかし、その平和と引き換えにするように、三人のスケジュールは週末ごとに「三人での予定」で埋まるようになっていった。
ある土曜日、藤沢の提案で、三人で少し遠出をすることになった。
目的地は、神戸の六甲山を越えた先にある、有馬の静かな温泉街。
新地のバーで飲んでいた際、香織が「最近、仕事が忙しくて肩こりが酷くて、温泉にでも浸かりたいな」と溢したのを、藤沢が覚えていたのだ。
「お待たせしました」
待ち合わせ場所の梅田のロータリーに現れた藤沢は、普段のスーツ姿とは打って変わって、上質な白のサマーニットにライトグレーのスラックスという、リラクシーでありながら洗練された私服姿だった。
「うわぁ、藤沢さん、私服もすごくお洒落!」
香織が素直な感嘆の声を上げる。今日の香織は、ノースリーブのサマーワンピースに麦わら帽子という、夏の妖精のような愛らしさだった。
「ありがとうございます。奥村さんも、今日のシックな装い、とても素敵ですね」
藤沢が助手席のドアを開けながら、美咲に向かって微笑む。美咲は、黒のシンプルなサロペットにリネンシャツを羽織っていた。藤沢の「大人シンプル」な世界観に、無意識に合わせようとしていた自分に気づき、美咲は少し気恥ずかしくなった。
「ありがとうございます。じゃあ、私は後ろに座りますね」
美咲が後部座席へ行こうとすると、香織がすかさず「あ、美咲、私が後ろに行くよ! 藤沢さんの運転のナビ、美咲がしてあげて」と言って、美咲の背中を助手席へと押し込んだ。
「え、でも――」
「いいからいいから! 私、車内ではお菓子食べる専門だから」
香織はケラケラと笑いながら後部座席に乗り込み、さっさとシートベルトを締めてしまった。
戸惑いながらも、美咲は藤沢の隣、助手席へと腰を下ろした。
ドアが閉まると、車内には藤沢が愛用しているという、微かなシトラスとウッドの香りが満ちていた。それは、あの北新地の夜に美咲が感じた、彼の「大人の匂い」そのものだった。
「では、出発しますね。お二人とも、シートベルトは大丈夫ですか?」
藤沢がバックミラーを確認し、滑らかに車を発進させる。
阪神高速に乗ると、窓の外には青い大阪湾が広がった。
車内には、藤沢がセレクトしたという、軽快なボサノヴァが流れている。
「藤沢さん、本当に運転が上手ですね。全然揺れない」
後部座席から、香織が身を乗り出すようにして話しかける。
「学生の頃、よくドライブをしていたんです。当時はもっとうるさい車に乗っていましたが、大人になると静かな空間が恋しくなりまして」
藤沢はハンドルを握る指先一つ動かさず、大人の余裕で答える。
「へぇー! 藤沢さんの学生時代って、どんな感じだったんですか? 想像つかないなぁ。やっぱりモテモテだったんでしょう?」
香織の質問は、いつもストレートで、天真爛漫だ。美咲なら「プライベートに踏み込みすぎかな」と躊躇してしまうような領域にも、香織は持ち前の愛嬌で軽々と踏み込んでいく。そして不思議なことに、藤沢もそれを嫌がっている風には見えなかった。
「まさか。当時はデザインの課題に追われて、毎日泥のように寝るだけの生活でしたよ。女性とデートをする時間なんて、これっぽっちもありませんでした」
「嘘だぁ! 隠してるだけですよね、美咲もそう思うよね?」
話を振られ、美咲はバックミラー越しに香織を見た。香織の目は、冗談めかしながらも、藤沢の答えを真剣に探ろうとしているように見えた。
「さあ、どうだろう。でも、藤沢さんなら、周りの女性が放っておかなかったのは確実だと思うよ」
美咲が努めて冷静に言うと、藤沢は「奥村さんまで、からかわないでください」と苦笑した。
助手席から見る藤沢の横顔は、やはり完璧だった。
ハンドルを握る適度に引き締まった腕、シフトノブを動かすスマートな手つき。その一つひとつが、美咲の視線を惹きつけて離さない。
しかし同時に、美咲は後部座席からの香織の熱い視線も、痛いほどに感じていた。
香織は完全に、藤沢に恋をしている。
十四年間、彼女のすべての恋愛を見届けてきた美咲だからこそ、それは確信を持って言えた。香織が本気で人を好きになったときの、あの独特の、世界がその人中心に回り始めるような輝き。今の香織は、まさにその状態だった。
「……じゃあ、美咲は?」
不意に、香織が小さな声で言った。
「え?」
「美咲は、藤沢さんみたいな人、どう思う?」
車内の空気が、一瞬だけぴりりと張り詰めたような気がした。ボサノヴァの音が、急に遠く感じられる。
藤沢も、心なしかチラリと美咲の方に視線を向けたように見えた。
美咲は、喉の奥がカラカラに乾いていくのを感じながら、窓の外の流れる景色を見つめた。
「……素敵だと思うよ。仕事もできて、こんなに優しい人、滅多にいないもの」
それが、美咲の精一杯の、そして最大限の「嘘のない本音」だった。
「ですよね!」
香織は何事もなかったかのように嬉しそうに笑ったが、美咲の胸の中のシーソーは、ギッコンバッタンと不穏な音を立てて揺れ動いていた。
親友が、大好きな人が、同じ男性を見つめている。
そして自分もまた、その男性の重力から、もう逃れられなくなっている。
有馬の美しい新緑の景色が、美咲の目には、どこか哀しいグラデーションを帯びて映っていた。
4
ドライブの帰り道、夜の御堂筋はイルミネーションのように美しく輝いていた。
有馬の温泉で日頃の疲れを癒やし、美味しい豆腐料理を堪能した三人は、心地よい疲労感に包まれていた。
「楽しかったなぁ……。明日からの仕事、まじで頑張れる気がする」
後部座席で、香織が満足そうに伸びをする。
「それは良かったです。お二人をリフレッシュさせるという目的は、達成できたようですね」
藤沢は車を梅田の駅近くに止め、ハザードランプを点滅させた。
「藤沢さん、今日は本当にありがとうございました。運転、お疲れ様でした」
美咲が助手席から降り、頭を下げる。
「いいえ、僕こそ楽しかったです。奥村さん、また月曜日の打ち合わせ、よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします」
「藤沢さん、バイバイ! またね!」
香織が助手席の窓越しに、大きく手を振る。藤沢はそれに応えるように優しく微笑み、車を静かに発進させた。
漆黒のセダンが夜の街へと消えていくのを見送った後、美咲と香織はどちらからともなく、「ちょっとだけ、飲んで帰る?」と言い合った。いつもの合言葉だった。
駅近くの、少し照明を落とした大人っぽい雰囲気のバルに入る。
カウンター席に並んで座り、冷えたスパークリングワインで乾杯した。
「あー、やっぱり藤沢さんって最高だよね」
香織がグラスを置き、トロンとした目で言った。お酒の勢いもあるのだろうが、彼女の口から出る言葉は、もう藤沢のことでいっぱいだった。
「うん、そうだね。本当に、非の打ち所がない人」
美咲は、自分のグラスの泡をじっと見つめながら答えた。
「私さ……」
香織がグラスを持つ手を止め、美咲の方を真っ直ぐに見た。その目は、いつになく真剣だった。
「私、藤沢さんのこと、本気で好きになっちゃったみたい」
心臓が、ドクンと大きく波打った。
分かっていた。確信もしていた。それでも、香織の口から直接その言葉を聞かされると、胸の奥を鋭い刃物で刺されたような痛みが走った。
「……そっか」
美咲は、自分の声が震えないように、細心の注意を払いながら言葉を絞り出した。
「香織、本気なんだね」
「うん。あの日、京橋のコンビニで助けてもらった時から、ずっと頭から離れないの。仕事中のスマートなところも、今日見せてくれた優しい私服姿も、全部愛おしいっていうか……。私、あんなに誰かをカッコいいって思ったの、生まれて初めてかもしれない」
香織は恥ずかしそうに両手で顔を覆ったが、その指隙間から見える目は、完全に恋する乙女のそれだった。
「美咲は、応援してくれる?」
香織が顔を上げ、不安そうに、しかし期待に満ちた目で美咲を見つめる。
いつもなら、「あったり前じゃん! あんたの恋を私が応援しなくて誰がすんのよ!」と、背中を叩いて笑い飛ばしていたはずだった。それが、十四年間続いてきた、二人の「無敵の友情」の形だった。
しかし、今の美咲の唇は、鉛のように重く、どうしてもその言葉を形にすることができなかった。
「美咲……?」
香織が、美咲の異変に気づいたように、怪訝そうに眉をひそめる。
美咲は、自分の胸の奥に閉じ込めていた感情が、もう限界まで膨れ上がっていることを自覚した。これ以上、親友に嘘をつき続けることは、友情に対する裏切りだ。でも、本当のことを言えば、この完璧だった二人の関係が、跡形もなく壊れてしまうかもしれない。
激しい葛藤の末、美咲はゆっくりとグラスを置き、香織の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「……香織」
「うん」
「ごめん。私……私も、藤沢さんのこと、好きになっちゃった」
バルの喧騒が、一瞬にして消え去ったような気がした。
香織の目が見開かれ、手にしたグラスが微かにカタカタと震える。
何でも話せる仲で、楽しい時も悲しい時も、失恋の夜も、すべてを分け合ってきた親友。
その二人の間に、初めて、冷たくて、重い、名前のない「境界線」が引かれた瞬間だった。
冷めかけたカクテルの泡が、二人の沈黙の中で、静かに、しかし確実に消えていった。




