第3話 ガチャタイム!!
「帰るぞメルグ!!」
「温度差がすごいのう」
俺はゴブリンの死体を抱え、全力でダンジョンへ駆け戻っていた。
なぜなら――
「追加召喚だぁぁぁぁ!!」
「完全に脳を焼かれておるのう……」
ダンジョンへ戻るなり、俺はゴブリンの死体をダンジョンコアの前へ放り投げた。黒い水晶がぼんやりと光る。死体が粒子となって吸い込まれていった。
ピコンッ。
ーーー
【ゴブリン】を変換しました。
3DPを獲得しました。
ーーー
「おおっ!」
さらに続けて文字が浮かび上がる。
ーーー
初心者ミッション達成。
報酬:
【召喚回数+1】
ーーー
「きたぁぁぁぁ!!」
「はしゃぎすぎじゃぞ主殿。魔王としての威厳が……」
「だって追加召喚だぞ!?ロマンしかないだろ!!」
俺は即座に【召喚】を開く。
ーーー
【召喚】
必要DP:1
現在召喚可能回数:1
ーーー
「今度こそ美少女よ、来い……!」
俺は迷わず【召喚】を押した。ダンジョンコアが輝く。
床へ魔法陣が展開され、光が溢れ出した。
ガシャッ。
「…………」
乾いた音が響く。
現れたのは――
一体の骸骨だった。
ボロボロの骨。 錆びた剣。 欠けた頭蓋骨。
見るからに弱そうだ。
半透明の文字が浮かび上がる。
ーーー
名前:未設定
種族:スケルトン
種族階級:低級
レベル:1
スキル:ーーー
ーーー
「弱そう」
思わず呟く。
するとスケルトンがビクッと震えた。
「カ、カタ……」
「なんか傷ついてる!?」
「主殿が言ったからじゃろうに」
スケルトンはおずおずと錆びた剣を掲げる。
そして。
ポキッ。
剣が折れた。
「もろっ!?」
「見事なまでの低級種族じゃなぁ」
「お前はフォローしろよ!」
スケルトンはショックを受けたように膝をつく。
カタカタ震えている。なんか罪悪感がすごい。
「……ん?」
その時だった。
スケルトンが折れた剣をじっと見つめ始めた。
そして骨の指で、なんとか剣を繋げようとしている。
不器用に。
だけど必死に。
「ほう……?」
メルグが少し驚いた声を出した。
「普通のスケルトンは、ここまでの意思はないんじゃがな」
「え?」
「基本は本能だけで動く単純魔物じゃ。武器へ執着する個体は珍しい」
スケルトンは折れた剣を抱えたまま、どことなく不安そうにこちらを見上げてきた。
「……なんか放っとけねぇな」
「強くなりたいという意志のある者を、見捨てる理由もあるまいて」
するとメルグが、ふと思い出したように言った。
「そうじゃ、主殿にいうのを忘れておったが、儂は変異種じゃよ」
「変異種?」
「通常のスライムに知性などない。儂みたいなのは数千体に一体レベルにレアな個体じゃな」
「めちゃアタリじゃん」
「召喚時に知性変異を引く確率は、0.03%程度じゃ。めちゃくちゃアタリじゃ」
「なんで最初に運使い切ってんだ俺」
ガチャあるある。序盤だけ異様に運が良いタイプ、まさに初心者ボーナス。
「そういやメルグのステータスって見れんの?」
「ほっほっほ。見れるぞい」
俺は【ステータス閲覧】を押した。
ーーー
名前:メルグ
種族:博士スライム(変異種)
種族階級:兵士級
レベル:32
スキル:【知識庫】
【魔力解析】
【ダンジョン編集補助】
ーーー
「レベル32!?」
思わず叫ぶ。しかも戦士級。
俺がさっきまで相手していたゴブリンとは、格が違う。
「主殿より遥かに格上じゃな」
「いや怖ぇよ!!」
「伊達に長生きしとらんからのう」
「戦士級なら、戦力としても申し分ないんじゃ!」
「儂は知性に長けておるだけじゃ。戦力として期待されても困る。戦争ならもってこいじゃがな」
「なんだよぉ。戦争なんてしないよ」
するとスケルトンが、おずおずとこちらへ近づいてきた。
「カタ……」
「ん?」
頭を差し出してくる。
前世に飼っていた愛犬を思い出し、反射的に頭蓋骨へ手を置いた。
カタカタカタッ!
「うおっ!?」
「喜んでおるのう」
「感情あるじゃんお前」
なんかもう愛着湧いてきた。
「よし。お前、今日からムクロな」
「カタッ!」
嬉しそうに剣を掲げる。
そしてまた折れた。
ポキッ。
「どうなってんだよお前の武器!」
その瞬間。
ピコンッ。
ーーー
【初心者ダンジョン】
魔王:レベル2
階層:1
DP:2
配下:2
機能:【召喚】
【ダンジョン編集】
【配下】NEW
ーーー
「おっ!」
「新機能解放じゃな」
さらに画面が切り替わる。
ーーー
【配下】
現在配下:賢者スライム・メルグ
スケルトン・ムクロ
機能:【テイム】
【ステータス閲覧】
ーーー
「テイム!?」
「魔物を配下にできる機能じゃな」
「やばっ、夢広がるんだけど」
その時、ふと気づく。
「……そういや俺の名前ってどうなるんだ?」
「人間名のままでも問題はなかろう」
「いやでもなぁ……」
小田。
小田寅。
友達にはずっと“小田”って呼ばれてた。
親くらいだ。
“寅”って呼んでたのは。
「小田……小田……」
口に出してみる。
その瞬間。
「オーダー……?」
なんとなくしっくりきた。
「おお。魔王っぽいのう」
「よし、これでいく」
俺は早速【ステータス閲覧】を押した。
ーーー
名前:オーダー
種族:魔人
種族階級:戦士級
称号:ダンジョン魔王
レベル:1
スキル:ーーー
ーーー
「……魔人?」
思わず呟く。しかも戦士級。
低級だったムクロとは、明らかに格が違う。
「俺の方が強そうじゃね?」
「主殿。種族階級はあくまで種族の格じゃ」
「格?」
「戦士級種族だからといって強いとは限らん。逆に低級種族でも、鍛え抜かれれば格上を喰うこともある」
「へぇ」
「主殿は今、“強い種族の赤子”みたいな状態じゃな」
「うわ、言い方」
「種族としての格は高い。じゃがレベルは1。今の主殿は見せかけだけ立派な魔王というわけじゃ」
「めちゃくちゃ言うじゃん」
だが否定はできなかった。
ステータスだけ見れば凄そうだ。
だが実際は、ゴブリン相手にも苦戦するレベル。
鏡がないので確認できないが、少なくとも見た目に違和感はない。
手も足も普通の人間だ。角も翼もない。
「見た目は人と変わらん。じゃがれっきとした魔人じゃよ」
メルグが補足するように言った。
「魔人は高い魔力親和性を持つ種族。成長すれば、国を焼き払うほどの魔法を扱う者もおる」
「うおぉ……!めちゃくちゃロマンあるじゃん!」
人間ではない。
その事実に少しだけ不思議な感覚を覚える。
だが、不思議と嫌ではなかった。
むしろ――
「……異世界っぽくて、いいな」
そう呟いた、その時だった。
「……いや待て」
俺はもう一度ステータスを見直した。
ーーー
スキル:ーーー
ーーー
「スキルなくない?」
「…………」
「…………」
メルグが気まずそうに視線を逸らした。
「いや魔王だぞ俺!?普通なんかあるだろ!?」
「ほっほっほ……」
「笑って誤魔化すな!!」
するとムクロが、おずおずと俺の肩を叩いた。
カタッ。
「慰めんな。お前もスキル空欄仲間だろうが」




