58話 最終決算(ファイナル・アカウンティング)
宇宙の著作権を「セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ」の名義で独占登記し、因果律そのものをローゼン・グループの「利用規約」へと書き換えてから一時間。ついに、全宇宙のステークホルダー(人類、魔族、精霊、そして膝の笑いが止まらない神)を招集した、史上最大の「宇宙合同・最終決算報告会(株主総会)」が幕を開けた。
ローゼン・タワーは今や地上を離れ、銀河の頂点に君臨する巨大な「黄金の監査台」と化している。
「……マックス。出席状況はどうかしら? まさか『仕事が忙しい』なんていう低俗な理由で、私の総会を欠席している不届きな惑星(資産)はいないでしょうね?」
セシリアが冷徹に、宇宙の塵一つ逃さない「全知全能の眼鏡(魔導デバイス)」をかけると、マックスは無慈悲な出席簿を表示した。
「……CEO。全銀河系、全次元、および死後の世界。出席率は一二〇パーセントです。あまりの恐怖……いえ、期待により、既に故人となった過去の偉人たちも、ローゼン・ポイントで『一時蘇生ライセンス』を購入して列席しておりますな」
「……プッ、あははは! 死んでからも私の決算書が気になって蘇るなんて。……最高に『未練がましい』ポートフォリオね」
セシリアは、全宇宙の空間に投影された巨大なホログラムとして立ち上がった。その手には、銀河系の質量を合算した重みを持つ「黄金の扇子」が握られている。
「……親愛なる、私の『所有物』の皆様。……本日をもって、この宇宙のすべての『悲劇』、『欠乏』、『理不尽』は、私の帳簿において一括消却(償却)されました。……これからの宇宙において、許可なく泣くことは『資産の毀損』。勝手に死ぬことは『労働力の横領』。……すべては私の利益の歯車として、永遠に回り続けることを宣言するわ!」
その瞬間、銀河の彼方から「異議あり!」という、かつての主役(不良債権)たちの叫びが響いた。
ガリアの凍土から戻ったエリオット、そして「聖女Vチューバー」として活動させられていたリリィが、民衆を煽って反旗を翻そうとしていた。
「……セシリア! 人の心は数字じゃない! 僕たちは、自由を……真実の愛を取り戻すんだ!」
「……寄るな、不良債権。……リリィ、貴方が今叫んでいるその『自由』の拡声器、我が社のリース品(月額三〇〇〇ローゼン)よ。……そしてエリオット。貴方が踏みしめているその『反乱の意志』。……既に私の特許範囲内よ。……叫べば叫ぶほど、私の懐に『著作権使用料』が流れ込む仕組みになっているの」
「……なっ!? 叫ぶことすら……課金対象だというのか……っ!」
絶望する彼らの前に、宇宙空間を「平泳ぎ」で突破して、光り輝くアルヴィスが降臨した。
彼は今、全宇宙の「幸福の重圧」を一手に引き受けるため、背中に「銀河系そのもの」を背負った『アトラス・筋肉・モード』に突入していた。
『エリオットーー!! 愛を語る前に、この「全宇宙分の重力スクワット」を代わってみろーー!! セシリア様が構築したこの完璧な世界を支えるには、毎秒一〇〇兆キロカロリーの情熱が必要なんだ!! 自由が欲しければ、この筋肉の壁を越えてみせろおおお!!』
「寄るなイケメン! 貴方のその『銀河背負い』、宇宙の膨張率がアルヴィスの筋密度に負けて、空間が『筋肉の形』に歪み始めているじゃないの! ……マックス。アルヴィスのこの過剰な負荷を、新サービス『宇宙の重力を調整するジム』のエネルギーとして外販なさい。……一〇〇グラム痩せるごとに、一万ローゼンの成功報酬をいただくのよ」
『……っ! 俺の筋肉が……宇宙の質量保存の法則を……デバッグ(修正)している……! セシリア様、俺は今、全宇宙の『重心』になった気分だあああ!!』
セシリアは、混乱と感嘆の渦に巻かれる宇宙を満足げに見下ろし、黄金の扇子をパチンと閉じた。
「……さて。最終決算の結果を発表するわ。……今期、この宇宙の純利益は……『無限』。……よって、剰余金の配当として、全人類に『永遠の労働権』と『ローゼン・プレミアム・永久無料体験(※退会不可)』を付与してあげるわ」
歓喜(あるいは諦め)の絶叫が宇宙を揺らす。
悪役令嬢セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ。
彼女の覇道は、ついに「ハッピーエンド」という概念すらもM&Aし、自分の都合の良い「永遠の継続事業」へと作り変えてしまった。
「……さあ、次の決算(新時代)を始めましょう。……マックス。……この宇宙の掃除が終わったら、次は『隣の次元』の買収リストを持ってきなさい。……あちらの世界の『神様』も、そろそろ私の管理下に入りたがっているはずよ」
銀河の頂点で、誰よりも高慢に、誰よりも美しく笑うセシリア。
彼女の手に握られた電卓が、今日もまた、世界の新たな価値を刻み続けていた。




