50話 国家という名の「倒産寸前モデル」
魔王城を「ローゼン・ファンタジア」としてテーマパーク化し、魔王サタンの威厳をポップコーンの香りに変換してから一週間。次なる「不良債権」の通知が、私の黄金のデスクに届けられた。
「……マックス。隣国ガリア帝国の『国家予算報告書』、これ何かしら? 赤字の桁が多すぎて、私の魔導電卓が『物理的に煙を吹いて』停止したのだけれど」
私が冷徹に、焦げた電卓をゴミ箱へ(優雅に)シュートすると、マックスは分厚い「官報」を無造作に開いた。
「……CEO。ガリア帝国は現在、過度な軍備拡張と、皇帝ルーデンス氏による『黄金の風呂釜』の乱造により、国家破綻寸前です。……昨日の時点で、通貨『ガリア・マルク』の価値は、我が社の『トイレットペーパー(二層式)』一ロールを下回りました」
「……プッ、あははは! 国家のプライドが、お尻を拭く紙より安いの? ……最高に『清潔な』インフレね。……いい? マックス。軍隊を差し向けて占領するなんて、火薬代の無駄よ。……ガリア帝国そのものを、我が社の『連結子会社』として全資産買い上げ(TOB)なさい」
数時間後。ローゼン・タワーの「VIP商談室」。
そこには、震える手で豪華な刺繍の入ったマントを握りしめる、ガリア帝国第14代皇帝ルーデンスが座っていた。
「……セ、セシリア嬢。……我が帝国は、一〇〇〇年の歴史を持つ……。……それを、貴様の『ローゼン・グループ』の一部署にするなど、先祖への冒涜だと思わないのか……っ!」
「……寄るな、倒産寸前の皇帝。……貴方の『歴史』なんていう減価償却の終わった骨董品、一ゴルドの担保価値もないわ。……見なさい、この契約書。……貴方の国の『徴税権』、『立法権』、そして『皇帝の王冠(二四金製)』。……すべてまとめて、私の『ポケットマネー』で買い取ってあげるわ」
「……な、なんだと……!? 買い取るだと……!?」
「……ええ。……その代わり、貴方には『ガリア支店・支店長代理(見習い)』というポストを用意してあげるわ。……一〇〇〇年の歴史を、これからは『月給制(手取り二〇万ローゼン)』で守りなさい」
その時、商談室の防音壁を「背筋の力」だけでひび割れさせながら、アルヴィスが乱入した。
彼は今、ガリア帝国の再建を支援するためか、「帝国の軍旗(※特注のシルク製)」をふんどし代わりに腰に巻き付けていた。
『セシリア様!! ガリアの再建なら、俺の「筋肉融資」が役に立つぞ!! 帝国の騎士たちにスクワットを教えたら、重い鎧を脱ぎ捨てて「全裸で耕作」する喜び(筋肉)に目覚めた!! これで農業生産性が三〇〇パーセントアップだあああ!!』
「寄るなイケメン! 帝国の軍旗をそんなところに巻かないで、国家の尊厳が『筋肉の汗』で濡れているじゃないの! ……ルーデンス支店長代理。……見なさい。貴方の騎士団は、今やアルヴィスの下で『人力トラクター』として生まれ変わったわ。……無駄な戦争を繰り返すより、筋肉で大地を潤す方が、よっぽど平和的で高収益だと思わない?」
「……っ! 騎士たちが……誇り高き鉄壁の騎士たちが……パンツ一丁でクワを振っている……。……あぁ……これが……資本主義の暴力なのか……っ!」
ルーデンス皇帝が、震える指で「全資産譲渡契約書」にサインを記入する。
悪役令嬢セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ。
彼女の覇道は、国境という名の「非効率な壁」を取り払い、ついに地図そのものを自らの「固定資産台帳」へと書き換えた。
「……さあ、次の決算を始めましょう。……マックス。……ガリア帝国の全領土を『ローゼン・物流ハブ』に指定なさい。……一〇〇〇年の歴史を持つ街道は、すべて『ローゼン・プレミアム会員専用道路』として有料化(課金)するのよ」
「……国家を丸ごとサブスクリプション化ですな。……流石はCEO。……皇帝の溜息すらも、二酸化炭素排出権として売買するおつもりですか」
不敵に笑うセシリア。
大陸最大の帝国は、わずか一日の商談で、ローゼン・グループの「地方拠点」へと格下げされた。




