47話 魔物たちの「働き方改革」
魔王軍を「ローゼン・ホールディングス・魔界事業部」として完全買収し、四天王をそれぞれの適正に合わせて各部署へ強制配属してから一週間。魔王城は、ドクロの装飾が「安全第一」のステッカーに貼り替えられ、禍々しい紫の霧の代わりに「加湿空気清浄機」のマイナスイオンが漂う近代オフィスへと変貌していた。
「……マックス。魔物たちの労働生産性はどうなっているかしら? まだ人間を襲うとか、非効率な時間外労働(略奪)に勤しんでいる個体はいないでしょうね?」
私が冷徹に、魔界産の漆黒のカカオ(糖分控えめ)を口にしながら問いかけると、マックスはタブレットに映し出された驚異的な右肩上がりのグラフを提示した。
「……CEO。信じがたい結果です。かつて『略奪』という不定期な歩合給で動いていた魔物たちが、『固定給+社会保険完備』という甘美な響きに屈しました。……特にオーク族による『宅配ロジスティクス部門』は、その強靭な足腰を活かし、大陸全土への当日配送を実現。……顧客満足度は、聖教国の祈りを超えておりますな」
「……プッ、あははは! 結局、魔物だって将来の年金(安定)が欲しかったのよ。……ディートリヒ、魔王城の地下に幽閉されていた『闇の精霊』たちの使い道は?」
モニター越しに、今や魔界のITインフラを統括するディートリヒが、寝不足の目で答える。
「……セシリア様……。彼らの『影を操る能力』を転用し……超高速の『光(影)通信回線』を構築しました……。……一秒間に……一億件の……呪詛を……送受信可能です……。……魔界の……光熱費……ゼロです……」
その時、執務室の窓を突き破らんばかりの振動と共に、アルヴィスが乱入した。
彼は今、魔物たちの教育係として「猛獣使いの鞭(※自分を叩く用)」を首に巻いていた。
『セシリア様!! 魔物たちに「筋肉の素晴らしさ」を説いてきたぞ!! ドラゴンたちにベンチプレスを教えたら、吐息の火力が二倍になった! これで発電効率がさらに上がるぞおおお!!』
「寄るなイケメン! ドラゴンのブレスでタービンを回すのはいいけれど、煤で私のタワーを汚さないで! ……マックス、ドラゴンたちの『燃料費(肉)』を計算しなさい。……一ワットあたりのコストが、アルヴィスの筋肉発電を上回るようなら、即座にバイオ燃料(肥料)に加工するのよ!」
『……っ! ドラゴンすらも……歩留まり(効率)で評価されるのか! セシリア様、貴女の経営判断は……ドラゴンの鱗より硬いな!!』
一方、魔王サタンは、自らの玉座が「マッサージチェア付きのデスク」に改造されたことに涙していた。
「……セシリア。私は、世界を闇に包むために……」
「……黙りなさい、サタン事業部長。……貴方が闇に包もうとしたせいで、ロウソク代という名の『照明コスト』がどれだけ世界経済を圧迫したと思っているの? ……いい? これからは『二十四時間、明るく健康的な魔界』が我が社のモットーよ。……夜間の電力料金を吊り上げるために、貴方の魔力でわざと太陽を遮る『計画日食ビジネス』。……これを来月からローンチなさい」
「……くっ、私は……世界の恐怖を司る王のはずだ……。……なのに、なぜ今、私は『顧客向けの謝罪メール』の雛形を作っているのだ……っ!」
「……それが『責任』という名の、王の真の重み(コスト)よ。……さあ、サタン部長。……未達成のノルマを、その魔力の残量(MP)で埋め合わせなさい」
悪役令嬢セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ。
彼女の覇道は、人類の天敵であった魔王軍すらも「優良子会社」へと更生させ、世界の恐怖すらも「収益源」へとカスタマイズしていく。
「……さあ、次の決算を始めましょう。……魔界の皆様。……貴方たちの『死の呪い』。……最新の『害虫駆除サービス』として、一回九八〇〇ローゼンで外注してあげるわ」
魔界に響く、冷徹な電卓の音。
それは、どんな魔法よりも確実に、世界の混沌を秩序(利益)へと変えていくメロディだった。




