46話 魔王という名の「不採算CEO」
元婚約者エリオットをガリアの凍土へ「特殊作業員」として出荷し、窓際課の空調コストを15パーセント削減することに成功してから数日。ローゼン・タワーの最上階に、一通の「挑戦状」という名の、あまりにも時代錯誤な羊皮紙が届けられた。
「……マックス。この、黒い粘液が滴っている悪趣味な手紙は何? 我が社の郵便物仕分け基準に、なぜ『呪い付きの不審物』が引っかからなかったのかしら?」
私が冷徹に、ピンセットでその手紙をつまみ上げると、マックスは無表情にシュレッダーを起動した。
「……CEO。送り主は、大陸北部の魔界を統べる『魔王サタン』。内容は……『人類よ、我に跪け。さもなくば滅びを』という、典型的な中小企業の倒産間際の強がり(テンプレ)ですな。……なお、魔王軍の現在の負債額は、推定で三兆二〇〇〇億ローゼン。……実質、破綻状態です」
「……プッ、あははは! 跪けですって? 借金まみれの王様が、誰に口を利いているのかしら。……いい? マックス。滅ぼすよりも『買い叩く』方が、よっぽど効率的な征服なのよ」
私は、即座に「魔王軍・事業承継プロジェクト」を立ち上げた。
数時間後。ローゼン・タワーの「第一応接室」。そこには、禍々しい角と翼を持つ、魔王軍の精鋭——「四天王」たちが、あまりの近代的なオフィスの輝きに圧倒され、所在なげにパイプ椅子に座っていた。
「……貴様が、セシリア・ヴァン・ローゼンバーグか。……我ら四天王を呼び出すとは、よほど死にたいと見える……」
炎を纏った巨漢、火炎将軍フレアが凄む。……が、彼の足元には、我が社の「全自動・魔導ルンバ」が執拗に彼の靴の泥を吸い取ろうとアタックを繰り返していた。
「……寄るな、火炎将軍。貴方のその『無駄な火力』、室温を三度も上昇させているわ。……冷房代の追加料金を請求する前に、その火を消しなさい。……それより、本題よ。……貴方たちの魔王城、既に固定資産税の滞納で『差し押さえ予告』が出ているけれど、どうするつもり?」
「な……な、何故それを……っ!?」
「……カイル。彼らの『裏帳簿』、開示してあげなさい」
天井の影からカイルが、分厚い「監査報告書」を四天王の前に叩きつけた。
「……魔王軍の兵站コストは、年間売上(略奪品)の二〇〇パーセントを超過。……特に、魔物たちの『食費』と、無意味な『トゲトゲの鎧』の製造費が、経営を圧迫しています」
「……というわけよ。……さあ、面接を始めましょう。……四天王の皆さん。……貴方たちの『特殊技能』。……我が社の『多角経営』において、どの程度の収益を生めるのか……。……数字で証明してみなさい」
その時、ドアが「バゴォォォン!」と開き、アルヴィスが乱入した。
彼は今、魔王軍の威圧感に対抗するためか、「全身を鋼鉄のチェーンで縛り上げた(※トレーニング用)」姿であった。
『セシリア様!! 魔王軍のスカウトなら、俺が適任だ!! 見ろ、この「魔力を跳ね返す広背筋」を!! 四天王よ、俺とスクワット三万回をこなし、どちらの「生存本能」が上か、筋肉で語り合おうではないか!!』
「寄るなイケメン! 貴方のその『チェーンの摩擦音』が、商談の録音を妨害しているわよ! ……フレア将軍。……貴方のその火力。……我が社の『廃棄物焼却センター』の熱源として採用してあげるわ。……時給は八〇〇ローゼン。……成果報酬として、燃やしたゴミ一トンにつき一ポイント進呈よ」
「……は、八〇〇ローゼン……!? 我ら四天王を、ゴミ処理係にするというのか……っ!」
「……文句があるなら、今すぐその三兆円の借金を返しなさい。……できないなら、貴方のプライドを『可燃ゴミ』として燃やして、私の利益に変えるのよ!」
絶望に震える四天王。
悪役令嬢セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ。
彼女の覇道は、人類の脅威であったはずの魔物たちすらも「低賃金の労働力」として帳簿に書き込んでいく。
「……さあ、次の決算を始めましょう。……ディートリヒ。……魔王城の地下にある『暗黒魔法の泉』。……あれを精製して、最新の『魔導エナジードリンク』としてパッケージしなさい。……寝不足のサラリーマンに、高値で売りつけてあげるわ」
魔王の威厳すらも、セシリアの「事業計画書」の前では、ただの減価償却資産に過ぎなかった。




