45話 エリオットの逆襲(笑)と、「不良在庫一掃セール」
窓際課のデスクに「自家発電ペダル」を設置し、エリオットが流す「未練の汗」を電力に変えてから三日。なんと、この不良債権が、あろうことか他の窓際族——汚職官僚やリストラ魔王軍幹部——を糾合し、「対セシリア包囲網(労働組合風)」を結成したという報告が入った。
「……マックス。エリオットたちが、給湯室で『王政復古の決起集会』を開いているそうね? 議題は何かしら? 『おやつ代の増額』かしら、それとも『ペダルの負荷軽減』?」
私が冷徹に、最高級の魔導ルビーで爪を磨きながら問いかけると、マックスは呆れたように肩をすくめた。
「……CEO。彼らのスローガンは『人間としての尊厳と、定時退社の確保』ですな。……エリオット氏は、自分が王位に返り咲けば、ローゼン・グループを国営化し、社員全員を『王の僕』として再雇用すると放言しております」
「……プッ、あははは! 国営化ですって? 赤字を垂れ流していたあの無能な王家が? ……笑わせないで。……カイル、彼らの『決起集会(笑)』の様子を、全社員のモニターにライブ配信なさい。……『我が社の反面教師・エンターテインメント』として、福利厚生の一環にするのよ」
モニターに映し出されたエリオットは、湯呑みを片手に、机の上に立ち上がって叫んでいた。
「……皆、聞け! セシリアは独裁者だ! 彼女の計算式には『愛』がない! 僕たちは数字じゃない、生身の人間なんだ! さあ、立ち上がれ! 今こそ、このタワーの電源を切り、彼女の帳簿を真っ白にするんだ!!」
その瞬間、窓際課の扉が「ドンッ!」と開き、ディートリヒが重い足取りで入ってきた。彼の背後には、アルヴィスが担いできた「超巨大・魔導拡声器」が鎮座している。
「……五月蝿い……。……エリオット……。……君たちの『尊厳』の維持費……。……一分あたり四八〇〇ローゼン。……君たちがここで叫んでいる間にも、セシリア様の『機会損失』が発生している……。……今すぐ、その無駄な熱量を、我が社の『新開発・ストレス解消用サンドバッグ』の中に封じ込めなさい……!」
「な、なんだと!? 僕はサンドバッグじゃない、王だ!」
『エリオットーー!! 王なら、民(社員)のために体を張れーー!! 見ろ、この「鋼鉄の腹筋」を!! 叩いてみろ、俺の筋肉がお前の「革命ごっこ」をすべて受け止めて、熱エネルギーに変換してやるぞおおお!!』
アルヴィスが上半身の服を弾き飛ばし、エリオットの前に立ちはだかる。
エリオットが放った渾身のパンチは、アルヴィスの大胸筋に当たった瞬間、「ポフッ」という情けない音を立てて吸収され、逆にエリオットの拳が脱臼した。
「……さて。エリオット、貴方の『反乱(コスト増)』。……我が社にとっては、絶好の『不良在庫一掃セール』のチャンスだわ」
私は、執務室のスピーカーを通じて宣告した。
「……いい? エリオット。貴方たち『窓際族』を、隣国ガリアの『鉱山開発・特殊作業員』として一括売却することに決めたわ。……名目は『王族による現場視察(強制労働)』。……一人あたり五〇万ローゼンの紹介料が、既に私の口座に振り込まれているわよ」
「……な、なんだって!? 売却!? 僕は……僕は商品じゃない!!」
「……あら、帳簿に載っている以上、立派な『流動資産』よ。……売れない在庫を抱えておくほど、私はお人好しじゃないわ。……さあ、ガリアの凍土をその高貴な指で掘り起こして、私のために『レアメタル』を献上なさい!」
泣き叫ぶエリオットと窓際族一行が、アルヴィスによって「一束」にまとめられ、ガリア行きの魔導貨物列車へと運び込まれていく。……ふふ、これでタワーの空気も清浄化され、人件費率も適正化されたわ。
「……さあ、次の決算を始めましょう。……マックス。……エリオットが列車内で流す『愚痴』。……それも録音して『失意の王子・ボイスドラマ』として、ファンに高値で売りつけなさい。……最後まで、一滴の利益も逃さないわよ」
悪役令嬢セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ。
彼女の覇道は、かつての婚約者という「過去の遺物」すらも、最新のビジネスモデルで徹底的に搾り尽くしていく。
「……ディートリヒ、アルヴィス。……次は、魔王軍の『不良債権・残党』の査定よ。……一人残らず、私の利益の歯車に変えてあげなさい」
タワーに響く、冷徹で美しい笑い声。
エリオットの「逆襲」は、セシリアの帳簿において、わずか数行の「特別利益」として処理されたに過ぎなかった。




