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寄るなイケメンっ!私は私の道を行くー覇道を極めし悪役令嬢ー  作者: 折若ちい
第9章 隠密カイル、世界諜報網「ローゼン・リークス」の構築

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42話 影のギルドの福利厚生

世界中の「秘密」を「ローゼン・ポイント」という名の電子チップに変換し、権力構造を内側からドロドロに溶かし始めてから一週間。ローゼン・タワーの地下にある「株式会社ローゼン・リークス」の執務スペースでは、かつて闇に生きていた隠密たちが、戸惑いと感動に震えていた。


「……カイル。貴方の部下たちの顔色、なんだか良すぎるんじゃない? 隠密ならもっと、死相の漂う土気色をした『消耗品』のような顔をしていなさいよ」


私が冷徹に、特製の低周波・魔導マッサージチェアに深く腰掛けながら告げると、カイルは天井の影からではなく、正面のドアから「社員証」をピッとスキャンして入室してきた。


「……セシリア様。……部下たちは今、混乱しています。……昨日まで命を狙い合っていたライバルギルドの刺客と、同じ『休憩スペース』で無料の魔導コーヒーを飲み、健康診断の結果について語り合っているのですから……」


「……プッ、あははは! 殺し合うエネルギーがあるなら、一文字でも多くタイピングなさい。……いい? カイル。闇の世界の離職率が高いのは、偏に『将来への不安』と『劣悪な労働環境』のせいよ。……私が導入した『潜入手当』と『深夜残業代の全額支給』。これだけで、彼らの忠誠心ロイヤリティは、神様への信仰心デッドコピーを優に超えたわ」


広いオフィスを見渡せば、黒装束のまま「肩こり解消ストレッチ」に励む忍びや、モニターに向かって「この汚職ログの裏取り、有給休暇明けにやります」とチャットを打つ工作員の姿があった。


「……セシリア様。……特に好評なのは、『潜入中に負傷した場合の全額医療費負担』と、万が一の際の『遺族年金』です。……彼らは今まで、使い捨てられることが誇りだと思い込まされてきましたが……。……『代わりはいない、貴重な人財アセットだ』と言われ、初めて人間としての尊厳を……」


「……勘違いしないで。……単に、新しい隠密を一から育成する『採用・教育コスト』が馬鹿高いから、既存の個体を延命させているだけよ。……壊れたら修理ヒールして、また現場へ放り出す。……これこそが、私の提唱する『サステナブルな闇営業』よ」


その時、オフィスの強化ガラスの外側に、凄まじい勢いで「プロテインの粉末」が降り注いだ。

 アルヴィスが、窓の外で「空中腹筋」をしながら、内側の隠密たちを鼓舞していたのだ。


『お前たちーー!! 事務仕事ばかりでは広背筋が死ぬぞーー!! 報告書を書く合間に、指立て伏せを一〇〇〇回こなせーー!! 強い筋肉こそが、最強のファイアウォールだあああ!!』


「寄るなイケメン! 貴方のその『無駄な熱血』、集中してログを解析している社員たちのノイズ(雑音)にしかならないわよ! ……カイル、アルヴィスを『社員研修の講師』として計上なさい。……『隠密のための、見つかっても力でねじ伏せる護身術』。……これで、生存率をさらに五パーセント引き上げなさい!」


「……っ! 隠密に、存在感の塊であるアルヴィス様の技術を……。……もはや『隠れる』ことを放棄した、新時代のステルスですね。……承知いたしました」


『……っ! 俺が……闇のプロフェッショナルたちの師匠に……! セシリア様、俺の筋肉を……組織の基盤プラットフォームにしてくれるのか!!』


アルヴィスが咆哮しながら、窓の外で「逆立ち歩行」によるパトロールを開始した。……本当に、あの男を「福利厚生施設トレーニングジム」として運用できるのは、私くらいの度量がないと無理だわ。


一方、世界中の秘密を握られた王族たちは、ローゼン・リークスの「ホワイトすぎる体制」に絶望していた。

 かつて金で雇っていたスパイたちが、次々と「ローゼン・グループの方が福利厚生が良いから」と退職願(または亡命)を叩きつけ、ローゼン・リークスの正社員へとコンバージョン(転向)していくからだ。


「……さあ、次の決算を始めましょう。……マックス。……闇の世界の『平均賃金』を、我が社の基準で一気に吊り上げなさい。……他社(他国)が追随できないレベルまで人件費を高騰させ、ライバルの隠密ギルドをすべて破産デフォルトに追い込むのよ」


「……競合他社の『人材枯渇』を狙った、残酷な賃金テロですな。……流石はCEOです」


私は、満足げに黄金のペンを走らせた。

 悪役令嬢セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ。

 彼女の覇道は、闇に生きる者たちの「生存権」すらも自らの経営資源に取り込み、ついに世界から「秘密」を持つ自由を完全に奪い去った。


「……カイル。……次のターゲットは、隣国の『魔導学園』の隠し図書室よ。……情報の独占は、市場の停滞を招く罪悪。……すべて、私の『ライブラリ』に並べなさい」


影へと消える、ホワイト企業戦士となった隠密たち。

 世界を管理し、光と影を帳簿で統合する「ローゼン・ホールディングス」。

 その支配は、誰一人として逃げ出すことのできない「あまりにも幸福な地獄オフィス」へと進化していた。

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