40話 内部告発(アフィリエイト)の嵐
カイル率いる影のギルドを「株式会社ローゼン・リークス」へと組織改編し、全世界の小市民を「情報提供型アフィリエイター」へと変貌させてから三日。私の執務室にある専用端末には、秒単位で「世界の裏側」が濁流のように流れ込んでいた。
「……マックス。今朝の『投稿数』の推移はどうなっているかしら?」
私が冷徹に、指先でホログラムのスクロールを止めながら問いかけると、マックスは音もなく隣に立ち、赤い警告灯が点滅するグラフを提示した。
「……CEO。凄まじい勢いです。特に、隣国ガリアの『官僚による昼食代の公金流用』と、商業都市フェルゼンの『ギルド長による二重帳簿』へのタレコミが、想定の五〇〇パーセントを超えました。……信徒や平民たちが、日頃の鬱憤を『ポイント(報酬)』という実利に変える快感に目覚めたようですな」
「……プッ、あははは! やっぱりね。正義感で世界を良くしようだなんて、誰も思わないけれど……。……『隣の強欲な上司を売れば、今夜のディナーが豪華になる』と言えば、人間は喜んで身内を差し出すものよ。……カイル、情報の精査はどう?」
天井の隅、換気ダクトの影からカイルの低い声が響いた。
「……完了しています。……AI(魔導演算機)によるフェイクニュースの自動排除に加え、私の部下たちが『裏取り』を並列実行しています。……現在、有効なリーク確定率は八二パーセント。……これらすべてに、報酬としてのローゼン・ポイントを自動送金しました」
「素晴らしいわ。……情報の原価が、たった数ポイントの『デジタル・クーポン』で済むなんて。……これこそが、情報の『地産地消』ね」
その時、執務室の窓を激しく叩く筋肉の圧が、またしても空気を震わせた。
アルヴィスが、今度は「カモフラージュ塗装(全身を金粉で塗っただけ)」という、全く意味をなさない姿で外壁に張り付いていた。
『セシリア様!! 俺もカイルの「影の任務」を手伝いたいんだ!! この金色の輝きで、敵の視神経を焼き切り、その隙に隠密たちが……ぐえっ!?』
「寄るなイケメン! 貴方のその『金粉』、我が社の監視カメラの露出設定を狂わせるでしょうが! ……カイル、アルヴィスのあの無駄な輝きを『囮』として利用なさい。……『黄金の騎士が街に現れた』とリークを流せば、欲に目が眩んだ汚職官僚たちが一斉に集まってくるわ。……そこを、一網打尽にスキャンダル(証拠)として記録するのよ!」
「……承知いたしました。……アルヴィス様、そのまま『思考停止した黄金像』として三時間ほど街の広場でポーズを決めていてください。……それが、セシリア様への最大の献身です」
『……っ! 黄金の彫像としての任務……! セシリア様の視線を独占するための……静止か!! 喜んでえええ!!』
アルヴィスが街へと落下していく。……本当に、あの男を「注意を引きつけるための広告費」として計上できるのは、我が社だけね。
数時間後。世界中の権力者たちは、未だかつてない「恐怖」に震えていた。
彼らが愛人に送った恋文、隠し持っていた裏金、部下へのパワハラ発言——。
それらすべてが、ローゼン・リークスの公式アプリを通じて、一般市民のスマホ(魔導端末)に「本日のトレンド」としてプッシュ通知されるようになったからだ。
「な、なんだ!? 私の昨夜の寝言が、なぜポイント欲しさの妻に売られているんだ……っ!」
「……おのれセシリア・ヴァン・ローゼンバーグ! 情報の透明化だと!? これは、プライバシーの侵害ではないか!」
モニター越しに、混乱する世界を見下ろしながら、私は優雅に扇子を広げた。
「……あら、プライバシー? ……そんな贅沢な固定資産、私の帳簿には存在しないわよ。……やましいことがないなら、堂々としていればいいじゃない。……もっとも、私への『上納金(システム利用料)』を払うなら、その情報を『非公開』にしてあげてもよくてよ?」
情報の透明化。それは、不都合な真実を握り、それを「武器」として突きつけるための最強のゆすり……いえ、コンサルティング・ビジネスだ。
「……さあ、次の決算を始めましょう。……カイル。……世界中の権力者の『沈黙』を、いくらで買い取らせるか……。……最高のオークション・リストを作成なさい」
不敵な笑みを浮かべるセシリア。
悪役令嬢の覇道は、世界中の「影」すらもデジタル化し、ついに一国のプライドを紙切れ一枚(一ポイント)の価値へと引き摺り下ろした。




