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寄るなイケメンっ!私は私の道を行くー覇道を極めし悪役令嬢ー  作者: 折若ちい
第6章 聖教国の「免罪符」をデジタル化(魔導化)せよ

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29話 聖遺物の「価値毀損」とオークション

聖教国エルドラドを「ローゼン・カスタマー・サクセス・センター」へと改装し、教皇をノルマに追われるトップ・オペレーターへと再教育リスキリングしてから一週間。私は大聖堂の地下、かつては選ばれし高位聖職者しか立ち入りを許されなかった「聖遺物安置庫」に立っていた。


そこには、数千年の歴史が育んだ、金銀財宝と「奇跡の残滓」がうず高く積まれている。だが、私の目には、それらは単なる「倉庫代を圧迫する不稼働在庫」にしか見えなかった。


「……マックス。この『聖者ペテロの指の骨』とされる乾燥物体。……炭素年代測定と魔導DNA鑑定の結果は?」


私が白い手袋をはめた指で、仰々しいベルベットのクッションに乗った骨を指差すと、マックスはタブレットの鑑定書を無慈称にスワイプした。


「……CEO。鑑定の結果、これは『約二百年前の野良犬の骨』であることが判明しました。魔力残滓はゼロ。……ただの有機ゴミですな」


「……プッ、あははは! 傑作ね! 聖教国の信徒たちは、二百年もの間、犬の骨に向かって『病を治してください』と祈っていたわけ? ……犬も、自分の骨がこれほど高い『評価単価バリュエーション』を付けられているとは思わなかったでしょうね」


私は、手にしていた鑑定済みの「聖遺物」リストを次々と赤ペンで消していく。


「次。この『聖母の涙が結晶化した真珠』。……これは?」


「ただの『高純度シリコン』です。製造元は隣国ガリアのガラス工房。……教皇庁が、三代前の教皇の代に安値で一括発注した記録が出てきました」


「……救いようのない詐欺集団ね。……カイル、この『偽造資産』のリスト、すべて我が社のオークションサイト『ローゼン・ビッド』に出品しなさい。……もちろん、正直に『犬の骨(聖遺物風)』『ガラス玉(聖母の涙風)』と記載してね」


天井の影からカイルが音もなく現れ、首を傾げた。

「……セシリア様。そんな正直な表記で、買い手がつくとお思いですか?」


「あら、カイル。貴方は市場の『ストーリー消費』という概念を知らないの? ……『かつて世界を騙した、歴史上最も高価な偽物』。……このコピーで売り出しなさい。……本物の聖遺物より、よっぽど皮肉の効いた『現代アート』として、物好きの成金たちが競い合って値を吊り上げるわよ」


その時、地下室の厚い石壁が「メキメキ」と音を立てて歪み始めた。

 壁の向こうから、凄まじい熱気と「フンッ! ハッ!」という規則的な呼気が漏れてくる。


「セシリア! 聖遺物の鑑定で、鑑定士たちの『論理的思考ロジック』がオーバーヒートしたと聞いたぞ! 俺の大胸筋から発せられる『情熱パッション』で、鑑定士たちの脳を再起動してこようか!? 筋肉こそが、真偽を超越した唯一の実在だ!!」


壁を突き破って現れたのは、全身から蒸気を立ち昇らせたアルヴィスだった。彼は鑑定途中の「聖剣(錆びた鉄屑)」を片手で軽々と持ち上げ、上腕二頭筋を誇示するようにポーズを決める。


「寄るなイケメン! 貴方のその『実在(筋肉)』が、地下室の湿度を一五パーセントも上昇させているのが分からないの!? 貴重な……いえ、転売予定の偽造資産にカビが生えたら、清掃費を貴方の給与から天引きするわよ!」


「……っ! 給与天引き! なんという甘美な経済的拘束だ! 報奨金ボーナスより、罰金ペナルティの方が俺を熱くさせる……! セシリア様ッ、もっと俺の資産価値を削ってくれ!!」


「……マックス。アルヴィスを今すぐ地上へ連れ出して。……彼を『オークションの景品』として出品して。……『一日中、貴方の横でスクワットをして自家発電し続けるイケメン騎士団長(期間限定リース)』。……これ、エネルギー価格が高騰している今なら、莫大な落札額が期待できるわ」


「……承知いたしました。……アルヴィス様、こちらへ。……貴方の筋肉を『資産運用』する時間です」


「な……!? 俺がリース物件に!? 身体を貸し出す……つまり、セシリア様に俺のすべてを管理されるということか! 望むところだあああ!!」


アルヴィスは歓喜の咆哮を上げながら、マックスに引きずられていった。……本当に、あの男を「動産」として処理するのは、これ以上ないほど合理的な判断だったわ。


「……さて。カイル、本題に戻りましょう。……地下金庫の最奥にある、あの『本物』の処理はどうなっているかしら?」


私が指差したのは、唯一、鑑定エラーが出なかった「純白の石板」。

 それは、神がこの世界を創った際に残したとされる「システムのソースコード(断片)」だ。


「……セシリア様。これだけは、下手に触れると世界の物理法則が崩壊する恐れがあります。……魔導師ディートリヒも『これの解析には、私の脳があと十個必要だ』と弱音を吐いていました」


「……ディートリヒも焼きが回ったわね。……いいわ、解析なんてしなくていい。……その石板、我が社の『新型クラウドサーバー』の「放熱板」として使いなさい」


「……放熱板、ですか? 神の言葉を?」


「ええ。神の言葉が『冷徹な真理』だと言うのなら、サーバーの熱くらい余裕で冷やしてくれるはずでしょう? ……神様だって、私のインフラを支える『部品パーツ』として働くのが、この世界に対する最大の貢献よ」


私は、冷たく微笑みながら、聖遺物安置庫の扉を閉めた。

 聖教国が隠し持っていた数千年の「神秘」は、今や私の手によって「オークションの目玉商品」と「サーバーの冷却装置」へと最適化リストラされた。


「……さあ、次の決算を始めましょう。……教皇様。……貴方の売った『犬の骨』のキャンセル料。……利息を含めて、今すぐ清算チェックアウトしてもらうわよ」


大聖堂の空には、偽物の聖遺物が次々と高値で競り落とされる「ローゼン・ビッド」の落札価格が、花火のように打ち上げられていた。

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