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寄るなイケメンっ!私は私の道を行くー覇道を極めし悪役令嬢ー  作者: 折若ちい
第6章 聖教国の「免罪符」をデジタル化(魔導化)せよ

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28話 教皇、カスタマーセンターで悟りを開く

聖教国エルドラドの象徴、天を突く大聖堂。かつて神託が下されたその玉座の間は、今や数百台の魔導端末が並び、無機質な電子音が響き渡る「ローゼン・カスタマー・サクセス・センター」へと完全改装されていた。


その最前列。純白の法衣を無理やり事務員用のベストで抑え込み、ヘッドセットを装着して震えている男がいた。第百二十七代教皇、ベネディクト十六世その人である。


「……あ、あの……はい。こちらは『神パス・テクニカルサポート』でございます……。ええ、はい……『パスワードを忘れて天国へのログインができない』……左様でございますか。……恐れ入りますが、ご生前のポイントを照合いたしますので、お客様のソウルIDをお答えいただけますでしょうか……」


かつて大陸全土に君臨した教皇の声は、今や一介のオペレーターとして、クレーマーたちの怒声に晒されていた。


「……マックス。教皇の『応対品質クオリティ・スコア』はどうなっているかしら?」


私がタワーのモニター越しに冷徹に問いかけると、マックスは厳しい表情でパフォーマンス・チャートを指し示した。


「……お話しになりません、CEO。顧客満足度(CS)は五段階評価で一・二。……いまだに『祈れば解決する』などという非論理的な回答を繰り返し、通話時間が平均して十五分を超えています。……これは我が社の標準KPIを著しく下回る『不良資産』ですな」


「……プッ、あははは! 傑作ね。全知全能の代理人が、たかがパスワード再発行の手順すら神託マニュアル通りに説明できないなんて。……教皇様、貴方の『信仰心』という名の情緒的バイアスが、業務効率を著しく阻害しているわよ」


私は、手にしていた魔導ペンを回し、教皇のデスクにある端末を強制的にハックしてスピーカーをオンにした。


『——教皇様。……貴方のその、震える指先一つで、一人の信徒が「地獄行き」のログインエラーに苦しんでいるのが分からないのかしら? ……神様は細部に宿るんじゃないわ。……神様は「最適化されたフローチャート」に宿るのよ』


「せ、セシリア様……っ! お許しください! この『顧客』という名の迷える子羊たちが放つ、あまりに即物的な欲望の数々……。私の魂が、ノイズで削り取られていくようです……!」


『削り取られる? ……いいえ、それは貴方の「余剰なプライド」が研磨されているだけよ。……いい? 今すぐそのクライアントに対し、我が社の「プレミアム・徳・ブーストパック」をアップセル(追加販売)なさい。……成約一回につき、貴方の滞納している固定資産税を〇・〇一パーセント減免してあげてもよくてよ?』


「……っ。げ、減免……! ……あ、お客様! 今なら三〇〇〇ローゼンの追加課金で、来世の転生先を『地主以上の身分』でガチャれるキャンペーン中でございますッ!!」


教皇の瞳に、信仰ではなく「ノルマ達成」という名のギラついた光が宿った。

 ……ふふ。人間、神を拝むより「数字」を追う方が、よっぽど必死になれるものね。


その時、センターの外壁を「自重トレーニング」の負荷代わりに利用して登ってきたアルヴィスが、窓を割らんばかりの勢いで叫んだ。


「セシリア! カスタマーセンターのサーバーが、教皇への殺到する苦情トラフィックでオーバーヒート寸前だ! 俺の広背筋を冷却ファン代わりに回して、熱を大気圏外へ放り出してこようか!? 筋肉こそが、システムの暴走を止める唯一のヒートシンクだ!!」


「寄るなイケメン! 貴方のその『熱い想い(体温)』が、一番の熱源になっているのが分からないの!? ……サーバーの冷却? ……いいわ、ディートリヒ。……アルヴィスのその運動エネルギーを、液体窒素の生成プラントに直結なさい。……彼がスクワットを一回するごとに、サーバー室に冷気が送られるように設定するのよ!」


「……っ! 筋肉による絶対零度の生成! セシリア様、貴女の命令は常に俺を『極限リミット』へと導いてくれる! 行くぞおおお!!」


アルヴィスが超高速スクワットを開始すると、サーバー室の温度が急激に下がり、結露で窓が凍りついた。……本当に、あの男の物理法則を無視した出力だけは、我が社の「簿外資産」として重宝するわね。


「……さて。カイル、聖教国の『地下金庫』の整理状況は?」


天井の影からカイルが、一通の漆黒の封筒を持って現れた。


「……完了しています。……驚きました。教皇庁の地下には、歴代の教皇たちが隠匿していた『神の沈黙』という名の禁忌の魔導書がありました。……その中身は、神の奇跡を人工的にシミュレートするための『世界管理コマンド』の一部……。つまり、この世界のシステム権限(ルート権限)の断片です」


「……プッ、クスクス! 最高に面白いわね。神様も、自分のパスワード管理を教皇庁という名の『脆弱なサーバー』に丸投げしていたなんて。……マックス、そのコマンド、今すぐ我が社の『全自動・運命操作プログラム』にプラグインとして組み込みなさい」


「……CEO。それは、もはや『経営』の範疇を超え、神への『ハッキング』になりますが……」


「いいえ。神がこの世界を『赤字垂れ流し』のまま放置しているなら、私がその『運営権』を買い取って、高収益・高効率な世界にデバッグしてあげるのが、真のコンサルタントというものでしょう?」


私は不敵に微笑み、聖教国の空を仰ぎ見た。

 かつて祈りの声に包まれていた白亜の都は、今や巨大な「データ・マイニング・シティ」へと変貌し、一秒間に億単位のローゼン(通貨)を生み出している。


「……さあ、次の決算を始めましょう。……教皇様、貴方の『悟り』の経緯。……我が社の『有料オンラインサロン』のコンテンツとして、月額九万ローゼンで配信させてもらうわよ」


教皇の悲鳴が、インカム越しに心地よいリズムとなって私の耳を打った。

 聖教国エルドラドの解体と再編。

 それは、世界の理を書き換える「ローゼン・ホールディングス」の、新たなる一ページに過ぎなかった。

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