24話 魔王軍、襲来? いえ「未開拓の労働力」の発見です
聖教国を「ローゼン・データセンター」へと改装し、教皇をカスタマーセンターの平社員へと叩き落としてから三日。私の執務室には、かつてないほど「騒がしい」報告が飛び込んできた。
「セシリア様! 大変です! 大陸東部の防衛線を突破し、魔王軍の先遣隊——黒騎士団三千が我が社の物流ルートを占拠! 『軟弱な人間どもの経済など、魔力の暴力で粉砕してくれるわ!』と声明を出しています!」
マックスが珍しく声を荒らげて報告する。モニターには、漆黒の甲冑に身を包み、禍々しい魔力を放つ騎士たちが、我が社の配送ゴーレムを剣で叩き壊す様子が映し出されていた。
「……あ。壊したわね、最新型の『ローゼン・エクスプレス・ゴーレム』。一台一、二〇〇万ローゼンもする特注品なのに。……マックス、直ちに損害賠償請求書を作成して。宛名は『魔王城・代表取締役・魔王ルシフェル』宛てよ」
「……CEO。彼らは対話の通じる相手ではありません。力こそが正義と信じる戦闘狂の集団です。……いかがいたしますか? 騎士団を……」
「暴力? だから言ったでしょ、それは最もコストパフォーマンスが悪いのよ。……カイル、魔王軍の『食糧事情』と『兵站』のデータを出しなさい」
影からカイルが、一瞬で解析結果をホログラムに投影した。
「……悲惨です。魔界は慢性的な飢餓状態。彼らが人間界に侵攻する真の理由は、誇りでも支配欲でもなく、単に『まともな米と肉が食べたいから』。……現在、彼らの主食は魔界産の毒キノコと、共食いに近い魔獣の肉。……平均寿命は人間の半分以下です」
「……プッ、クスクス! 最高にブラックな職場環境ね。魔王様は従業員の健康管理すらできていないのかしら? ……いいわ、作戦開始よ。……マックス、配送ゴーレムの積荷をすべて『ローゼン特製・高級和牛ステーキ弁当(温熱魔法付き)』に切り替えなさい。……それも、風下から匂いが届くように大量にね」
数時間後。大陸東部、魔王軍が陣を張る荒野。
黒騎士団の団長、バルバロスは、空腹で苛立ちながら剣を振り回していた。
「ぬかせ! 人間どもの文明など、略奪して食い尽くして……。……む? なんだ、この香ばしい、暴力的なまでに食欲をそそる匂いは……!」
空から、我が社の魔導飛行船がゆっくりと降下してくる。ハッチが開き、そこから大量の「ステーキ弁当」がパラシュートで投下された。
さらに、スピーカーからはリリィの「あざとい録音音声」が流れ出す。
『魔王軍の皆様ぁ! 毎日毒キノコばっかりで、お肌ボロボロじゃないですかぁ? ローゼン・ホールディングスでは、現在「魔族限定・中途採用キャンペーン」を実施中ですよぉ! 今なら入社祝金として、白いご飯が食べ放題ですっ!』
「な、なんだと……!? 白い……米だと……!?」
バルバロスの手が震える。彼が思わず一個の弁当を拾い上げ、一口食べた瞬間、彼の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「う、美味い……! なんだこの柔らかい肉は! 魔界の石のような肉とは比べものにならん……! 誇りなどどうでもいい、俺は……俺はこれが毎日食べたいんだぁぁ!!」
「「「団長ーーー!! 俺たちも食べたいですーーー!!」」」
三千の黒騎士団が、一斉に武器を捨てて弁当に群がる。
そこへ、タワーの外部スピーカーから私の冷徹な声が響き渡った。
『……あら、お口に合ったかしら? ……でも、その弁当、一個で一万ローゼン(時価)よ。……今貴方たちが食べた分だけで、三、〇〇〇万ローゼンの「売掛金」が発生したわ。……支払えないわよね? 無職だもの』
「な……!? 罠か! 卑怯な人間め!」
『卑怯? 商売と言ってちょうだい。……さて、バルバロス団長。……その借金、身体(労働)で返してもらうわよ。……今日から貴方たちは、我が社の「超高速・国際貨物・配送部隊」よ。その魔力と機動力があれば、大陸全土の一時間配送が可能になるわ』
その時、甲板からアルヴィスが、巨大なプロテインの樽を担いで飛び降りてきた。
「魔族の諸君! 貴様たちの筋肉は、略奪のためではなく、物流(幸せ)を運ぶためにある! 俺と一緒に、この大陸を筋肉の力で繋ごうじゃないか!! ほら、スクワットから始めるぞ!!」
「よ、寄るな暑苦しい人間……! だが、この男……俺たちより強い筋肉を持っているだと……!?」
「寄るなイケメン! アルヴィス、貴方の暑苦しさでステーキの焼き加減が変わったらどうするの!? ……バルバロス、契約書にサインしなさい。……断れば、次の便から『激辛デスソース味の毒キノコ』しか支給しないわよ?」
「……書く! 書きます! ローゼン・ホールディングスに骨を埋めます!!」
こうして、魔王軍の最精鋭部隊は、ステーキ弁当一個で私の「下請け運送業者」へと成り下がった。
魔王城に残された魔王ルシフェルは、今ごろ、部下たちが一斉に送信した「退職届(SNS経由)」を見て絶望しているはずだわ。
「……さて、マックス。魔王軍の福利厚生コスト、福利厚生費として計上して。……次は、いよいよ魔王城の『抵当権』を行使しに行くわよ」
私は、不敵な笑みを浮かべて、次なる「買収対象」の地図に、大きな『済』のハンコを押し当てた。




