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寄るなイケメンっ!私は私の道を行くー覇道を極めし悪役令嬢ー  作者: 折若ちい
第5章 聖教国のデジタル化(魔導化)

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23話 教皇、破産管財人と対面する

聖教国エルドラドの象徴、天を突く大聖堂の最深部。金箔と大理石で彩られた教皇の私室は、今や絶望という名の静寂に包まれていた。

 豪奢な椅子に座り、震える手で『ローゼン・フォン』を見つめているのは、第百二十七代教皇、ベネディクト十六世。その画面には、民衆が教会を包囲し、「不透明な会計を公開せよ!」「神パスを公式採用しろ!」と叫ぶデモのライブ映像が映し出されていた。


「……あり得ん。神の威光が、たかが娘の『計算機』に敗れるなど……。主よ、なぜ私をお見捨てになったのですか……」


「あら、神様のせいにしないでくださる? 貴方が無能な経営判断を下し続けた結果だというのに、責任転嫁リスクヘッジだけは一流ね」


重厚な扉を蹴破るようにして、私が足を踏み入れた。

 私の左右には、漆黒のスーツを着こなしたマックスと、なぜか「破産管財人」と書かれたタスキをかけたディートリヒが控えている。


「セ、セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ……! 悪魔め、ついに聖域を汚しに来たか!」


「汚す? 失礼ね。私はただ、この『不良資産の塊』を清掃しに来ただけよ。……ディートリヒ、監査結果を読み上げて」


ディートリヒは冷徹に眼鏡のブリッジを押し上げ、魔導タブレットを起動した。


「はい。教皇庁の総債務額は、現在把握できているだけで五百億ローゼン。原因は、聖遺物の維持費に見合わない過度な借入、および『免罪符』という名のジャンク債の発行による信用の失墜。……さらに、教皇閣下。貴方が個人口座で運営していた『オンラインカジノ・バチカン』での損失が、国家予算の三割を占めております」


「……っ!? それは……その、布教活動のための資金運用で……!」


「運用? ……プッ、あははは! 全方位で大負けしているのに運用だなんて、ギャンブラーの言い訳としても三流だわ。……教皇様。貴方の『神の代理人』としてのライセンス、今この瞬間をもって剥奪デリゲートさせていただくわ」


私は、テーブルに一枚の契約書を叩きつけた。


「これは『聖教国・民営化合意書』よ。……今日から、この大聖堂は我が社の『ローゼン・データセンター・エルドラド支店』として再利用するわ。この高い天井と厚い壁は、サーバーの冷却効率に最適だもの」


「な、なんということを……! 神の家を機械の墓場にするというのか!」


「いいえ。神の家を『世界の知識の集積地』にしてあげるのよ。……それから、貴方たちの着ているその金糸の法衣。……一着で平民の家庭が十年間暮らせる資産価値があるわね。……即座に没収し、我が社の清掃員の雑巾としてリサイクルするわ。……エリオット、入りなさい!」


扉の影から、バケツとモップを持ったエリオットが、誇らしげに胸を張って現れた。


「セシリア! ガリアの次は聖教国の掃除か! 貴女のために、この神聖な床を俺の汗でピカピカに磨き上げてやるぞ!」


「寄るなイケメン! 貴方の汗で床が滑りやすくなったら、サーバーの搬入作業に支障が出るでしょうが! ……今すぐその法衣を回収して、一枚残らず『シュレッダー』にかけてきなさい!」


「……っ! 聖なる衣をゴミにする背徳的な命令! 痺れるぜ、セシリア様ッ!!」


エリオットが教皇の服を剥ぎ取ろうと襲いかかる。阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる中、私は冷たく教皇を見下ろした。


「……教皇様。貴方の罪(赤字)は、一生かかっても返しきれないわ。……だから、貴方には新しい仕事を与えてあげる。……我が社の『神パス』のカスタマーセンター・オペレーターよ。……信徒たちの悩みを聞き続け、一〇万件のクレームを処理するごとに、一円ずつ債務を減額してあげるわ。……慈悲深いでしょ?」


「……ぁ……あぁ……」


教皇が崩れ落ちる。

 聖教国エルドラド。数千年の歴史を誇った宗教国家は、一人の悪役令嬢による「強制的な民営化」によって、その幕を閉じた。


数時間後。大聖堂の屋上テラス。

 夕日に染まる街並みを見下ろしながら、私はマックスから報告を受けていた。


「CEO。聖教国の住民の八割が、すでに『神パス』のプレミアム会員に移行しました。……信仰が可視化(データ化)されたことで、彼らの幸福度が三〇パーセント向上したという統計が出ています」


「……皮肉なものね。神様をクラウドに上げたほうが、みんな幸せになるなんて。……さて、マックス。次なるターゲットは……魔王軍、かしら?」


「魔王軍……。彼らは武力と恐怖で大陸を脅かす存在ですが」


「……非効率だわ。暴力で奪うより、契約で支配したほうが長期的な利益(LTV)が高いのに。……魔王様に、我が社の『福利厚生プラン』を提案しに行ってあげましょうか」


その時、タワーの壁を素手で登ってきたアルヴィスが、窓から顔を出した。


「セシリア! 魔王軍との戦いなら、俺の広背筋が黙っていないぞ! 魔王の首を、貴女の机の重石にして持ってこようか!」


「寄るなイケメン! 魔王の首なんて、検疫コストがかかるだけで一ゴルドの価値もないわ! ……貴方は、その溢れる力を次の『大陸横断鉄道』のレール敷設に使いなさい。……一キロメートルにつき、三秒で。……遅れたら、貴方の筋肉をプロテイン抜きの刑に処すわよ!」


「……っ! プロテイン抜き!? それだけは勘弁を! 全力でレールを敷きます、マイ・プレジデント!!」


アルヴィスが音速で走り去っていく。

 私は不敵に微笑み、新しい戦略図を広げた。

 悪役令嬢セシリアの覇道は、今や人間界の理を越え、魔の領域へと手を伸ばそうとしていた。


「……さあ、魔王様。……貴方の『恐怖政治』。……私の『資本主義』で、どちらが上か教えてあげるわ」

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