11.窮地に立って初めて分かる自分の愚かさ
エバーテイルオンラインを始めてから2週間が経過しました。
今日の天気は朝は晴れてたのに今は曇。
まるでエバーテイルオンラインの私の事みたいですね。
「はぁ~~~」
「どしたの、亜美。ここ最近ずっと暗いじゃん」
「みやびさん」
私がため息をついてたら心配になったみやびさんが声を掛けてくれました。
「何か悩み事? あたしで良かったら聞くよ」
「悩み事というか、いかに自分が馬鹿だったかを再確認してる真っ最中なんです」
「ふむふむ」
そう私は私は何もわかってない馬鹿な子供だったんです。
なんて自虐に走っても意味は無いですね。
「あ、もしかして例の男性にフラれたの?」
「いえ、それ以前の問題で、ただただ私があの人にご迷惑を掛けていたことに気付いたんです」
思い返してみれば最初の出会いだって私のお節介。
ベルンさんなら死のう死のうって言いつつ、息を吸うようにあのボスを倒していたはずです。
初日を除いて2回ほどベルンさんとはパーティーを組んで冒険に行きました。
そのどちらも私の被ダメージはほぼゼロ。
強いて言えば私の爆弾で吹き飛んだ石の破片が頭に当たって1ダメージ受けたかなとかそんな感じです。
出てくるモンスターはものの見事に私の爆弾魔法の的になってくれて気持ちよく爆殺しまくることが出来ました。
……その辺りで気付いてれば先週のあの事件も起きなかったんでしょうね。
「私、自分が十二分に強くて、ベルンさんと肩を並べて戦えてるって思ってたんです。
でも実際には肩を並べるどころかベルンさんに保護されてたんです」
「ん?でもそのベルンって人が壁役なんでしょ?
役割分担的にはその人が敵を足止めしてる間に亜美が攻撃するで間違ってないと思うよ」
「その壁役の人だけで戦っても十分に勝てるとしてもそうかな」
「壁役なのに攻撃力もあるってすごいわね」
「うん」
変幻自在の壁魔法は恐らくどんな敵にも対応できる万能魔法です。
かなりのレベル差があったはずの最初のボスでさえ完封出来るのだから、レベルの上がった今ならもっと強いモンスターでさえ彼の魔法を防ぐことは出来ないでしょう。
本来なら2番目の街の近くじゃなく、もっとずっと先まで進めるんだと思う。
実際は役に立つどころか、ただの足手まとい。
それなのに私が自分の力を過信してアタッカーとして彼の役に立ってるんだと思い込んでしまっていた。
それがはっきり分かったのは先週のあの時です。
調子に乗った私は魔物の巣窟を奥へ奥へと進んでいき、最後に大技を決めようとしていつものうっかりドジを発動して自分の魔法を暴発させてしまった。
結果、私の作った爆弾が爆発する寸前、私を包み込むように展開した壁によって私だけが助かりました。
壁が消えた時、すぐ目の前にいたはずのベルンさんの姿はどこにもなかった。
フレンドリストを見ればベルンさんの名前にドクロマークが付いていて、後で確認したところそれはデスペナルティが付与された状態、つまり死に戻った事を意味していました。
『ベルンさんって死ぬんだ』
不謹慎にも一瞬そう思ってしまった。
どんなモンスターを相手にしても飄々としていて、この人無敵なんじゃないかって思い始めたところだったので、私なんかの爆弾で死ぬとは思いもよらなかったんです。
ぼ~っと座りこんで、10秒くらいしてようやく現実を理解してきました。
『……死んだ? いや、違うでしょ! 私が殺したんだ」
これまでずっと護ってくれていたのに、酷い裏切りです。
それなのにベルンさんは自分の身を顧みず、私の事を護ってくれた。
きっと私を庇おうとしなければベルンさんは自分の事を護る余裕があったはずなのに。
だけどその時は自責の念に駆られている余裕はありませんでした。
それまで余裕だと思っていた湿地帯のモンスターが急に強くなって集団で私を襲い始めたんです。
さっきの爆弾で倒そうと思っていたリザードマン達もベルンさんが死に戻った事で自由を取り戻して私に向かってきました。
『グレネードショット!』
『ギャッ。フンッ!』
『うそっ、直撃したのに倒せない』
敵は6体。すぐに倒せないなら逃げながら攻撃するしかありません。
幸い敵に遠距離攻撃をする手段はなさそうなので、距離を取れば一方的に攻撃できるはず。
しかしその見通しは甘かったことがすぐに判明しました。
『シャーッ』
『ゲコッ』
『ギギッ』
それまで1体ずつ順番に出て来ていた蛇などのモンスターが次々と私の行く手を遮ります。
ベルンさんが居なくなって好機だと思ったんでしょうか。
と、その時はアホみたいにそう考えてました。
後から考えればずっとベルンさんが囲まれない様にと敵を遠ざけてくれていたんですよね。
でもそれに気づく余裕も無かったので、とにかく逃げ続けました。
何度も敵に吹き飛ばされて、大ダメージを受けると痛いというより重いって感覚なんだなと初めて知りました。
なにせそれまでほとんど敵から攻撃を受けたことがありませんでしたから。
そしてダメージが蓄積されていくと段々動けなくなっていくようです。
ポーションを使えば多少回復するものの、私が持ってるHPポーションでは全然回復しません。
『使わないかなって思ってても回復手段は多いに越したことはないよ』
そうベルンさんから言われていたものの、それまで全然ダメージを受けてなかったので2番目の街に着いてからもMPポーションしか補充してませんでした。
今あるのはゲーム開始時に配布された試供品のHPポーションだけ。
崖下に追い詰められた私はあと1、2回攻撃を受ければ死んでしまうところまで来ていました。
と、その時。上空から声が聞こえました。
『リアミンさん!」
それは死に戻ったはずのベルンさんの声でした。
その声に思わず空を見上げた私は、隙を突かれて吹き飛ばされてしまいました。
直後。
私は何か弾力のあるものに包まれたかと思えば手にはいつの間にか薬瓶が握られていました。
さっきの声から考えてベルンさんが壁魔法で私を保護しつつ、この薬を渡してくれたのでしょう。
何が起きるか分かりませんが、とりあえずその薬を飲み干せばHPもMPも全回復して身体の重さも解消しました。どうやら相当良い薬だったみたいです。
さて後は私身動きが取れないのですが。
と思ったところで視界は光に包まれました。といっても私を包んでる壁がサングラスがわりになってちょっと眩しいな~くらいの感覚です。
その光が収まり、同時に私を包んでいた壁が消えた時。それまで私を包囲していた数十体のモンスターは湿地ごと跡形もなく消えていました。残っているのは表面を吹き飛ばされた荒れ地のみ。
『リアミンさん!! 無事ですか?』
『う、うん』
私に声を掛けながらベルンさんが空から降りてきました。
ベルンさん空まで飛べるんだ。なんて見当はずれの感想を抱いていたら突然ベルンさんが謝りだしました!
(え、なんで? どう考えても悪いのは私なのに)
それとベルンさんは泥酔したお父さんみたいにへべれけで呂律も回らなくなってました。
大丈夫なんでしょうか。
でも問いかける間もなく帰還スクロールで街へと戻ってきました。
ベルンさんの様子もおかしいのでまずは身体を休めようと宿へと向かいます。
部屋に入り椅子に座りぐったりするベルンさんを横目に私もベッドに座りました。
(ここまで苦戦したのは初めてでしたね)
腰を落ち着けて、ようやく人心地ついた私はその時になってようやく今回の冒険の内容を振り返る余裕が出来たんです。
なぜベルンさんが居る間はあんなに楽に戦えていたのか。
なぜベルンさんだけが死に戻ってしまったのか。
なぜベルンさんが居なくなった後に急にピンチになったのか。
答えは簡単です。全部ベルンさんが護ってくれていたからです。
私はずっとベルンさんに護ってもらっていて、それを自分の実力だと誤認していたんです。
私の力があればあそこでも余裕で勝てる。ベルンさんは壁役として私をサポートしてくれてるだけだと。
でも実際は逆で、私はベルンさんに保護されてる状態だったんです。
今の私の実力でもダメージを受けずにモンスターを倒して楽しく冒険が出来るようにと相当気を使われていたんでしょう。
その証拠にベルンさんが居ない私は超ザコでした。
「みやびさん。
今週は一人で冒険して回っていたのですが、その間私が何回死に戻ったと思いますか?」
「死に戻ったって言うと、敵にやられたってことよね。
慎重な亜美の事だから、1,2回って所じゃない?」
「9回です」
「え、それってほぼ毎日じゃない」
「そうです」
エバーテイルオンラインは死に戻るとペナルティとして一時的に全ステータスが半減します。
なので平日は死に戻ると実質その日の冒険は終了です。
街の中でアイテムの補充や細々とした依頼をやるくらいしか出来る事がありません。
9回というのは平日毎日死んで、更に土日に複数回死んだ結果です。
「どうしてそんなことになったの?」
「今週は以前ベルンさんと一緒に行ったフィールドや、ベルンさんから私とは相性が良くないから行かない方が良いって言われてた所を中心に行ってきたんです」
「ふむふむ、火魔法使いなのに水属性の敵が出る所に行った、みたいな?」
「イメージ的にはそうですね」
私の攻撃手段は打撃武器と爆弾魔法。
なので大きくて硬くて動きが鈍い敵にはめっぽう強いんです。
逆に小さくて数が多くて動きが速い敵や、打撃が効かない敵は苦手です。
私は敏捷性が高いキャラではないので、速い攻撃を避ける事が出来ないので受け止めて防御する必要があるんですけど、これまでそれをする機会が全くなかったのでどうすれば良いかも分かりませんでした。
結果、どの場所でも逃げ帰ることも出来ずに倒されてしまいました。
「それで分かったのは、私はベルンさんにずっとおんぶにだっこだったんです。
ベルンさんは面白くもないのに最初に約束したから仕方なく私に付いて来てくれて、本来ならもっとずっと先に行けるのを我慢してくれてたんです」
「ふむ……」
私の言葉を聞いたみやびさんは、少し考えた後、ポツリと言いました。
「私はその人じゃないから実際はどうかは分からないけど」
「はい」
「その人は別に嫌々亜美と一緒に居た訳じゃないと思うよ」
「どうしてですか?」
「普通に考えて、出会ってまだ1週間も経ってない相手の為に嫌な事を押し込めて一緒に居ようとは思わないよ。
まして相手は顔も知らない、リアルで会ったことも無い訳だし、嫌なら一言『さようなら』って言って別れて連絡先ブロックすれば終わりじゃん。
それなのに一緒に居てくれて、嫌な顔一つしないでフォローしてくれて、ピンチになったら慌てて駆けつけてくれたって事は、何かしらその人なりに亜美と一緒にいて楽しめる要素があったってことよ。
だからそんなに気に病む必要はないわよ」
「……そうでしょうか」
「間違いないわ。
もしかしたら、その彼が亜美に一目惚れしてて気を惹きたい一心で頑張ってるって可能性もあるけど」
「うーん、そんな感じは無いと思います」
「そう。ならさっき言った方ね」
みやびさんがそう言うならそうなのかなって気がします。
なにせ彼女、人の気持ちを理解する天才ですから。
その才能のお陰で男女とも友達が多く、尚且つ適度な距離感を保っていられるのです。
私の悩み相談も今回が初めてって訳でもないですしね。
じゃあ後の問題は。
「どうやってベルンさんに謝ろう」
「別に謝る必要はないんじゃない?」
「え?」
だって今までずっと私に付き合って貰て、それなのに一方的に別れを告げてきたというのに。
思い返せば私の魔法で死に戻らせてしまったことを謝ってもいないです。
私がベルンさんだったら「全部自業自得なのに急に態度悪くなって勝手に何処かに行ってしまった面倒な奴!」と思ってしまうかもしれません。
だから諸々謝らないといけないと思うのですが。
「大丈夫よ。きっとその人は怒ってない」
「そう、ですか?」
「ええ。そこはあなたの親友の私が保証してあげるわ」
「凄い自信ですね」
「根拠ならあるもの。でもそれが何かは秘密。
それにもし万が一、その人が怒って亜美から離れるようなら、所詮それまでの人だったって事よ。
綺麗さっぱり忘れてしまえばいいわ」
「はぁ」
その確信に満ちた態度はどこから来るんでしょう。
ちょっと羨ましく思ってしまいます。




