10.陰キャボッチな僕はもう遅い
転生してから2週間が経過した。
今日の天気は曇。
何というか僕の心を映したみたいだ、なんて言うと格好つけ過ぎかな。
(はぁ~~~)
僕は心の中で盛大にため息をつく。
実際に口に出さないのは周りに迷惑を掛けない為。
ため息ついて「どうしたの?」なんて心配してもらえるのは女子か陽キャ男子であって、ボッチ陰キャな僕がため息をついても「うざっ」と思われるだけだ。
ちらりと横目で工藤さんを見れば、仲の良い女子と談笑中。話の内容はエバテに関することのようだけど、残念ながらもうリアルでもゲーム内でも彼女と接する機会はないだろう。
元々僕なんかとは違う世界の住人だと思ってたし、彼女に嫌われたのは彼女の期待を裏切ってしまった僕の自業自得だ。
今思い返してみれば酷い話だ。
彼女からしたら頼り甲斐のあるベテラン1期生のサポートが受けられると期待してたら、初期装備の弱そうな奴が来たんだ。失望して当たり前だ。
あれ以来、リアルで非難してこないのはせめてもの慈悲というものだろう。
僕は馬鹿だからこうして結果を見ないと自分の行動が如何に馬鹿だったのかが理解できない。
そんなだから、きっとリアミンさんの事も知らずに傷付けてしまったのだろう。
『すみません。しばらくは別行動で良いですか?』
1週間前にリアミンさんから告げられた一言が今だに僕の頭の中を木霊している。
しばらくって事は待っていたら元の鞘に収まるんだろう、なんて考えられる程僕はもうピュアではない。
女性が使うこの言葉は十中八九別れ話をオブラートに包んだ表現で、実際にはこうだろう。
『あなたと一緒に居たくないので、もう声掛けないでください。
今後すれ違っても知らない人のフリでお願いします』
僕なんかが乙女心を理解できるはずもなく、前回一緒に冒険した中で何か彼女を失望させることをしていたのか、それともそれ以前からずっと繰り返していて我慢の限界を超えてしまったのかも分からない。
原因が分からないので直したくても何をすればいいのか。
前回のリアミンさんとの冒険の内容をちょっと思い返してみよう。
……
…………
………………
「リアミンさん、行き先のリクエストとかある?」
合流したリアミンさんにそう訊ねてみたところ、ちょっと悩んでこう言った。
「昨日までは教えてもらった岩のモンスターが良く出る場所で戦ってたんですけど、ちょっと手ごたえが無くなってきたので、もっと難易度の高い所でも良いかなって思ってます」
「おぉ。リアミンさんもだいぶこのゲームに慣れて来たみたいだね」
リアミンさんが言ってるのは平均レベル30くらいのモンスターが出る狩場だ。
ハンマー使いやリアミンさんみたいに破壊に特化した魔法を使う人には敵の動きが単純で鈍いので格好の狩場となっている。
そこが余裕って事はリアミンさんのレベルも既に30を超えていることだろう。
ゲーム開始から1週間で30……まずまずのペースだね。
特に最初はレベル上がりやすいし良い狩場を見つければ60まですぐだ。
「逆にベルンさんはどこか行きたいところとか無いんですか?」
「僕? この辺りで欲しい素材とかは特にないし、今回はのんびりめで進めようと思ってるからギルドで依頼を受けて冒険者ランクを上げるとかかな」
「ベルンさんのランクって幾つですか?」
「Fだね」
「へっ!?」
僕のランクを聞いて驚かれたけど、ランクFっていうのは最低ランクの事だ。
なにせ転生前はランクをコツコツ上げるのが面倒で冒険者登録した後はギルドの依頼を一切受けずに先に進んでしまった。
ちなみに依頼を受けなくても依頼票に載っていた事柄を実行することは可能だったりする。
例えば『うちの娘が誘拐された。救い出して欲しい。誘拐犯は○○山を根城にした盗賊団だ』という依頼があった場合、その山に行けば盗賊団は居るし、娘も監禁されている。
なのでふらっと立ち寄ってお宝を頂戴しつつ娘も救い出して街に連れ帰れば『通りすがりの勇者様ありがとう!』みたいな感じで通常よりも好感度が上がるっぽいんだ。
同様にレアボスの出現情報とかも依頼を受けると何だかんだと段取りを踏まないといけなかったりするみたいなんだけど、直接乗り込めば全部すっ飛ばしてボスに奇襲をかける事ができる。
こうして振り返ると中々に阿漕な事をしてたんだな。
と、それは良いとしてだ。
「それじゃあ適当な討伐依頼か採取依頼を受けつつリアミンさんがやり応えを感じる敵を倒しに行こうか」
「はい!」
元気に返事をするリアミンさんを連れてやってきたのはクレイバレーという湿地フィールド。
ここは足元がぬかるんで歩きにくいし、敵の見た目が嫌いって人も多いのであまり人のいない狩場だ。
あと2番目の街の周辺としてはレベル高めなのでわざわざここに来るくらいなら幾つかある次の街に進むことを選ぶ人が大半だ。
昨日の内に予め下見して、今も人気が無いのは確認済みだ。
「主な魔物は蛇と蛙と蜥蜴なんだけど、リアミンさんは爬虫類とか大丈夫な方?」
「はい。動物園とかで見る分には割と可愛いって思えます」
「なら、まぁ大丈夫かな。無理だったら言ってね」
その時は僕が壁魔法で殲滅して依頼だけ達成すればいいし。
「『アイスウォール』」
「シャアッ!?」
早速出てきた蛇のモンスターを氷の壁で囲めば、たちまち動きが鈍った。
爬虫類は基本、寒さに弱いんだ。
もちろんゲームだしモンスターだから現実の事情を完全に踏襲してる訳じゃないけど、ある程度はいける。
そこへすかさずリアミンさんが爆弾魔法を使う。
「『グレネードショット』」
グレネードショットは手榴弾みたいな爆弾を撃ち出す魔法だ。
時限式、接触式どちらも選べるそうで遠距離から敵を爆殺出来る使い勝手の良い魔法だ。
瀕死になった蛇の魔物は続いて放った僕の石壁に押しつぶされて倒れた。
「全然大丈夫そうだね」
「はい。まだまだ余裕です!」
「ならもっと奥に行く?」
「そうですね。行きましょう」
気合十分なリアミンさんと共に湿地の奥へと向かった僕達。
ゲームの仕様上、同じフィールドなら奥に行くほどモンスターも強くなる。
入口は40手前だけど今居る所はレベル60前後かな。
流石にそろそろレベル30過ぎのリアミンさんの攻撃では簡単には倒せなくなってきた。
「リアミンさん、大丈夫?」
「ええ。敵の動きもそれ程速くないですし、一度に沢山来なければ十分戦えます」
「そっか。りょーかい」
頷きながら周囲の魔物の状況を整理する。
(あっちのリザードマン小隊は数が多すぎるし連携取られると面倒だから草の壁でこっちに気付かない様に遮断して。
こっちのマダラ蛇は事前に氷の壁で動きを鈍らせて。
蜥蜴と蛙も順番に近づいておいで)
僕のレベルもようやく12になったので色々成長している。
壁魔法もただ生み出したり消すだけじゃなく、離れた壁に伝わる熱や振動などを感知できるようになった。お陰で半径1キロくらいは手に取るように分かるのだ。
うーむ、壁魔法便利すぎ。
そうして狩りを始めて1時間が経ったところで。
「そろそろ1時間になるし休憩しようか」
「あ、もうそんなに過ぎてたんですね!
じゃあ最後に新技試してみても良いですか?」
「おぉ、良いんじゃない?」
「広範囲攻撃用のスキルなんで、出来れば敵が多い方がいいんですけど……」
「オッケー。なら向こうに行こうか」
6人組のリザードマンが居るし丁度良いだろう。
そして敵が見えてきたところでリアミンさんがぽつりと。
「溜めに時間が掛かるので足止めをお願いします」
「うむ、壁役の見せ所だね」
僕は良く見える石壁と、見えにくい風壁や雷壁を巧みに配置して敵が前進も後退も出来ない状態を創り上げてリアミンさんの準備が出来るのを待った。
……というか長いな。
気になって後ろを振り向いてみると。
「わあ」
僕の目に映ったのは巨大な爆弾の中に無数の手榴弾が封入されるところだった。
まさかクラスター爆弾か。
確かにあれなら一度に大量の敵を葬り去れるだろう。
惜しむらくは地上から投げる事になるので本来の爆撃ほど広範囲にならないことか。
でもその分威力が集中できると考えれば悪くない。
ただ、一度に大量の魔法を扱っているせいか爆弾を持つリアミンさんの手足がプルプルしてる。
「リアミンさん。それくらいで良いんじゃない?」
「いえ。折角ですから限界に挑戦してみます!」
「そ、そう」
まぁチャレンジに水を差すことも無いか。
そう思って待つ事さらに1分。
さっきよりも1回り大きくなった爆弾が出来上がっていた。
「準備、でき、ました」
「よし、じゃあ後はそれを向うにいる敵に投げちゃって」
「投げる?いや、それは、無理な、あっ」
「あっ」
ふらふらしてたリアミンさんは一歩前に出ようとして湿地に足を取られてこけた。
すると当然持っていた爆弾は目の前に投げ出される訳で。
(どっちだ。暴発ならリアミンさんも巻き込まれるぞ)
「っ『リフレクトウォール』!」
魔法はイメージだ。
僕は咄嗟にリアミンさんと爆弾の間に全力で衝撃を反射する壁を作った。
その直後。
カッ。ボボボボボッ!!!
連続する激しい爆発音を最後に、僕は第2の街に死に戻った。
エバテは死ぬと所持金と経験値の一部をロストして、しばらくの間能力値が半減するペナルティーが掛かる。アイテムロストが無いので良心的な仕様だ。
目が覚めた場所は神殿の一室。
部屋を出て周囲を確認するもリアミンさんの気配は無し。
どうやら無事に護りきれたようで一安心。してる場合じゃない!
僕は神殿を飛び出し急いでリアミンさんの元へと走った。
なにせさっきまで居た場所はレベル60の魔物が居る場所だ。
僕ならともかく、まだ40になったばかりのリアミンさん一人ではちょっと厳しい。
こういう時、転生前の風魔法とかを応用した高速飛行が使えなくなった事が悔やまれるけど無いものは仕方ない。
それでも10分程で現場に戻った時、リアミンさんは敵に囲まれてそれなりにダメージを受けていたものの何とか立っていた。
「リアミンさん!」
「ベルンさん。きゃっ」
僕の声を聞いたリアミンさんが巨大蛙のジャンプアタックに吹っ飛ばされた。
それを見た瞬間、カチリと僕の中で音がした。
「『ゴム壁』。からのリミッター解除。
マジックアイ全起動。魔石による魔力ブースト開始。
……INTが足りない?ってデスペナ! ならハッピートリガーを服用すれば、よし行ける。
女神よ僕に力を。『雷壁』全力展開!」
『『ギャアアアッ』』
僕はリアミンさんをゴム製の壁で包み込みつつ周囲一帯を雷撃の壁で吹き飛ばした。
水気の多いこの場所は火炎系は効果が下がるけど逆に電撃系は良く効くんだ。
そこにデスペナルティが付いてるとは言っても、魔力特化の僕が諸々のアイテムバフにドーピング薬に女神の加護まで加えた全力で魔法を放てば、周囲の地形もろとも魔物を全滅させるに至った。
ちょっとやりすぎたけど、それより今はリアミンさんだ。
「リアミンさん!! 無事ですか?」
「う、うん」
ゴム壁を解除しつつリアミンさんに声を掛ければどこか呆然とした様子。
多分さっきまで大量の魔物から集団リンチを受けていたのだから精神的ダメージが大きいんだろう。
そうなった原因は間違いなく僕だ。
「リアミンさん、ごめんなさい」
「え、なんでベルンさんが謝るんですか?
謝るならむしろベルンさんを死なせてしまった私の方じゃ」
「ううん、そんなことない。
そもそもこんなところに連れて来たぼくろせきにんやから」
「え、あ、その」
「それよりひちろもろろう」
「は、はい?」
ドーピング薬の影響でいつも以上にろれつが回らないし頭ぐわんぐわんする。
視界もぐにゃぐにゃで今自分が立っているのかも分からなくなってきた。
あの薬は一瞬だけ全ステータスを3倍に引き上げてくれるけど副作用が酷いのがネックだ。
ともかく僕達は周囲にモンスターが居なくなったことで使えるようになった帰還スクロールで街へと戻った。
宿屋の一室で僕は椅子に腰かけて副作用が抜けるのを待っている間、リアミンさんはベッドに腰を下ろしてじっと下を見てる。
そしてようやく意識がはっきりしてきた頃、リアミンさんはポツリと呟いた。
「もしかしなくてもベルンさん一人なら、別にあそこの魔物相手でも勝てたんですよね?」
「うん? まぁ」
「…………はぁ」
俯きながら何かをじっと考えたリアミンさんはため息を一つ吐いた。
これはあれかな。お前が舐めプしてたせいで私は酷い目に遭ったんだぞどうしてくれるんだってことかな。
いやでもリアミンさんに限ってそんな酷い事は言わないかな。
って出会ってまだ1週間だ。彼女の何が分かるんだって話か。
僕の事を糾弾しなくても、このゲームが嫌になったって可能性もあるし。
そうして何を言われるんだろうと不安になりながら次の言葉を待っていたらそれが来た。
「すみません。しばらくは別行動で良いですか?
私の方からパーティー組んでって言っておいて申し訳ないのですが」
「え?う、うん。
リアミンさんが、そうしたいなら」
「すみません。ありがとうございます。
では今日は疲れたのでそろそろ落ちます」
「うん。お疲れ様」
そうしてリアミンさんはそのままログアウトしていった。
……
…………
………………
って、どう考えてもダメダメじゃないか。
馬鹿か僕は!
何が原因が分からないだよ。
むしろこれで嫌われない方がおかしいって。
いくら優しいリアミンさんでも、あんな酷い目に合わせて許してくれる訳ないじゃないか。
というか真面に謝れてないし。許すも何もない。
せめて翌日すぐに土下座して謝れば許してくれた可能性は微かに残ってたのに1週間も経った今、改めて謝りに行ったところで、どこぞのざまぁ系よろしく『今更謝ってももう遅い』って言われるに決まってる。
「はぁ。僕ってどうしていつもこうなんだろう」
落ち着いて考えれば自明の事なのに、その場では全然頭が回らないんだ。
そして落ち着くころには何もかも手遅れっていう。
工藤さんのことだってもうちょっと考えて行動してれば不快な思いをさせずに済んだかもしれない。
乙女心が分からない、なんてのは所詮言い訳なんだよね。
ちゃんと相手の立場に立って考えれば分かることはもっといっぱいあるんだ。




