31-決着
ラインハルトはじりじりとアランを追い詰める。
「この場でお前とオーギュストを殺してシャルマニアを侵略することくらい、余には容易いことだ」
その声は低く、冗談や脅しではないことは確かだった。
「皇太子殿下……あなたのお望みのままに……」
アランは両手を挙げ、すぐに降参の意を示す。
「何を勘違いしておる」
ラインハルトの目はギラギラと輝いている。
口元は三日月型に引き上がり、不気味な笑みを浮かべている。
「これは取引ではない」
「余を虚仮にしたシャルマニアを潰すと宣言しているのだ」
アランの顔からみるみると血の気が引いてゆく。
そして、あっさりと気絶してしまった。
「ふむ、シャルマニア人はすぐ気絶するのだな……」
ラインハルトは眉を顰め、剣を鞘に収める。
「殿下……」
ジークフリートはラインハルトを前にして、所在無さげに顔を伏せた。
「勝手な行動を取ってしまい、申し訳ございませんでした……」
パーティでジークフリートがラインハルトと入れ替わっていたのは『ヴィヴィアン王女の持病の悪化』を聞き、レアの身を案じたからだった。
なんとか隙を見て助け出すことはできないか、そのためにはヴィヴィアン王女との接触が容易いラインハルトの姿の方が都合が良かった。
だがオーギュストの妨害でそれは不可能だった。
しかし自分の想い人が、二ヶ月の間にひどい衰弱状態に陥っていることを目の当たりにし、その身を案じて部屋を覗き込めば首を絞められ殺されようとしていた。
ジークフリートは堪えかねて、襲撃を行った。
「入れ替わりを提案された時点で、こうなることは予想していたさ。余にはわからぬ気持ちだがな」
ラインハルトは彼の行動に怒りを通り越して呆れ果てており、責め立てる気にもなれなかった。
だがこの惨状を前にすると、たかが女一人にこの男は無茶をするものだと、小言の一つも言いたくなった。
「……片付けはシャルマニアの国王にやらせる、行くぞ」
ラインハルトが部屋から立ち去ろうとすると、ジークフリートはレアを抱き上げる。
一緒に連れて行くつもりなのだろう。
「あ……」
ラインハルトはレアを一瞥するが、何も言わずに歩き出した。
♢
翌朝、宮殿の一室に通されたラインハルトに、シャルマニア国王・アンリは許しを乞う。
昨晩の出来事と、ラインハルトの『宣言』はすでに国王に伝わっていた。
ラインハルトはこれから侵略するという国__敵国の宮殿の一室にいるとは思えない、堂々たる立ち振る舞いでアンリを見つめている。
彼のすぐ後ろにはジークフリートが控えていた。
「どうか……どうかご慈悲を……!」
アンリ国王は目に涙を浮かべながら懇願する。
「今更何を言うか、」
ラインハルトは眉ひとつ動かない。
「全ては私の不徳の致すところ、息子とその臣下の企てを、私は国家のためと言い聞かせて見逃しておりました……」
ラインハルトの介入によって、ジークフリートの襲撃は『偽の王女を使ってエーデルラントを騙そうとしていたシャルマニアへの報復行為』なのだとアンリ国王は認識していた。
エーデルラントの軍事力は圧倒的だった。
戦争になれば、ラインハルトの言う通り『シャルマニアを潰す』ことは難しいことではない。
それをしないのは、豊かな資源を持つシャルマニアとの貿易によって、少なからずエーデルラントの社会基盤の一部は支えられており、国益のために長い歴史の中で続けられてきた争いに終止符を打ち、両国の王家の結婚により真の和平を築くためであった。
「ならばお前は、今度は自分の国が侵略されてゆくのを最後まで見届けていればいい」
アンリ国王はその場に膝をつき、地面に額を擦り付け、ラインハルトに深々と頭を下げる。
「この老王の首を捧げましょう、せめて、我が臣民たちには慈悲を……!」
その様子を一瞥すると、ラインハルトは溜息をつく。
この世界の男というのは、余を呆れさせる奴ばかりだ。
「……王女の死を公表し、手厚く葬ってやれ」
それだけ言うと立ち上がり、二人は部屋を後にした。
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