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30-襲撃


 投げ飛ばされたオーギュストは壁に叩きつけられ、そのまま気絶してしまった。

 皇太子というものは、成人男性一人をこうも簡単に投げ飛ばせるものなのだろうか。

 

(彼は、ラインハルトじゃない……!)


 レアは確信を抱いた。


 ブロンドの青年はレアを見ると、先ほどまでの様子が嘘のように顔から険がとれてゆく。


「レア! 怪我はないか……?」


 その声音は、ラインハルトの普段している不遜で傲慢でふてぶてしいものとは異なっていた。


 青年はレアに近づこうとするが、自分の髪に小さなガラス片がいくつか絡まっていることに気付き、乱暴にブロンドの髪を()()()()()

 (かつら)の下には銀色の短髪__


 予想通り、それはジークフリートだった。


「すまない……ラインハルトに頼んでずっと入れ替わっていた」 


 ジークフリートはレアを抱き起こす。

 レアがもごもごと話しをしようとすると、


「無理に話さなくていい、」


 優しい微笑みだった。


(どうして助けてくれたの、)


 そう聞きたかったが、その微笑みを前にレアは何も言えなくなり、思わず彼を抱きしめた。

 どうして彼は、自分にこんなに良くしてくれるのだろう。

 こんなことをしてしまったら、彼の身にも危険が及ぶかも知れないのに。


「とにかくここを逃げよう」


 その言葉とほぼ同時に、騒ぎを聞きつけ、部屋に数名分の大きな足音が近付いてくる。


 乱暴に扉が開け放たれる。


「オーギュスト殿下! 何かございましたか!?」


 アランと、護衛の兵士数名が部屋に足を踏み入れる。

 彼は部屋の惨状を前に、悲鳴を上げた。


「オーギュスト殿下!? 一体これはどういうことですか!?」


 ジークフリートの姿を前に、彼は怒りをあらわにし、護衛の兵士たちもジークフリートを取り囲む。


「こんなことをしてただで済むと思っているのですか!」


「それはこっちの台詞だ……」


 ジークフリートはレアから離れ、今度は剣を鞘から抜く。


 結論から言うと、ジークフリートは圧倒的な強さを見せ付けた。

 的確に兵士たちの足を狙い、全員を床に倒れ込ませた。

 わずか数秒間の出来事だった。


 わずか数秒間の間に、手加減をして、全員殺さずに行動不能にできるというのは、それだけ彼と兵士たちの間には実力差があるということだった。


(5年で准尉は……コネではなさそうだな)


 アランは足から血を流して倒れる兵士たちを見て、後ずさりする。


 ここに突っ立っていたら、自分にも危険が及ぶ。

 もっと兵士たちを呼んで、とにかくこの男をなんとかしなければ。


 急いで部屋を出て行かんとするも、黒闇から現れた男が剣を突き立てそれを妨げる。


「!?」


「余は虚仮にされ続けるのは我慢ならぬ」


 ()()()ラインハルトだった。

 騎士の服装をしており、おそらく先ほどまでジークフリートを演じていたのだろう。


読了ありがとうございました。

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