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29-灯火


 今更男一人を受け入れたところで、大したことはないはずだ。

 だが、なぜ自分はこんなに拒もうとしているのか。


 二つの手が、レアの首を絞め上げる。

 目の前のオーギュストの顔に笑みが戻る。


「あぁ、その顔だよ……弱々しくて、かわいい顔、ヴィヴィアンにそっくりだ」


 もはや王子としての責務を放棄した男は、この期に及んでレアと妹を重ねていた。


「ヴィヴィアン……君をこうやって殺すのは二回目だね」


 レアは呼吸ができず、目の前がどんどんとぼやけていく。


「今度は僕も、すぐに君の元へ行くよ」


「あの日、運悪く死に損ねた君を……僕はこうやって終わらせた」


「永遠の眠りについた君は、とても美しかった……」


「もう一度、あの晩のように愛し合おう」


 レアは薄れゆく意識の中で、ジークフリートのことを想い続けた。

 中途半端に彼と再会をしたせいで、尚更死んでしまうのが惜しい。


 自分はこのまま死に、死体はこの男に弄ばれる。

 あの時、王女になることを拒否して、鞭で打たれるなり監禁されるなりしてすぐに殺されてしまった方がマシだったのかもしれない。

 『レア』を殺すことを選び、『ヴィヴィアン』になることを選んだ自分の愚かしさを直視させられ、悔しさに涙を流す。


 瞬間、耳をつんざくような破壊音が部屋中に響いた。


「!?」


 オーギュストは首を絞める手を緩め、音の方向へ顔を向ける。

 解放されたレアは、咳き込む。

 

 男が、窓を突き破って部屋に侵入してきた。

 男の長いブロンドの髪は月明かりに照らされ、端正な顔と相まって神々しさを放っていた。


 __ラインハルトは、あの特徴的な青い瞳でオーギュストを睨みつけている。


「……ラインハルト殿下?」


 オーギュストはベッドから降り、すぐに護身用の剣を手に取る。


「無礼どころの問題ではないですよ……すぐに、ここから出て行っていただけますか」


 ラインハルトはその問いに答えることはなく、自身に向けられた剣に怯むこともなく、一歩、また一歩とオーギュストに近付く。

 レアはその姿に違和感を感じていた。


 一言も言葉を発することはなく、剣も抜かずに、静かにオーギュストを睨みつけるだけのラインハルトからは、明確な殺意が溢れ出していた。


 楽に死ねると思うなよ__そのようなことを言っているようだった。

 

 見えないはずの殺意に当てられ、オーギュストは額から汗を流す。

 死を恐れていない彼でさえも、ラインハルトの殺意に飲まれていた。


 果たして、ただ睨みつけるだけで相手を圧倒できる人間が、この世にどれほどいるのだろうか。


 この殺意は、目の前の男(オーギュスト)が、自分の最も大切な人間を害しているからこそ、溢れ出ているものなのではないのか。


 ブロンドの青年は目を見開き、一瞬で間合いを詰めると、鞘に収められたままの剣で自分に向けられていた剣をいとも簡単に叩き落とし、そのままオーギュストを()()()()()()


読了ありがとうございました。

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