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26-衰弱


 長い折檻は、レアの気絶で終わった。

 気絶をしているのに、体はガタガタと震え続ける異常な状態だった。


「アラン、水用意して」


 無理矢理起こすつもりなのだろう。


「これ以上は、ヴィヴィアン様の命に関わります……」


 アランの言葉に、オーギュストは我に返り鞭を落とす。


「あ……あ……」


 みるみるうちに彼の顔に絶望が広がる。


「僕はまたやってしまったんだね……

 僕は、なんてことを……ヴィヴィアンは大切な妹なのに……!」


 オーギュストは泣き叫ぶ。


「何をしている! 早く医者を呼べ!」





 前回のエーデルラントのパーティから二ヶ月、その間レアはずっと地下牢へ監禁されていた。

 最初の一週間は鞭で打たれたことによる背中の傷が原因で発熱に苦しみ、熱が下がった後も衰弱状態で食事が摂れず、医者から無理矢理投与される栄養剤で生き延びているような状態だった。


 二ヶ月間、オーギュストは毎日レアの看病に訪れた。

 レアの背中の傷を包帯越しに撫でながら、彼はぶつぶつと一人で喋り続ける。


「ごめんね、ヴィヴィアン。弱いお兄様でごめんね……でも君を守るためには仕方のないことなんだ……あの残酷で恐ろしいエゴイストの皇太子のところになんて行かせないよ……お兄様はヴィヴィアンの幸せを誰よりも願っているんだよ……? ヴィヴィアン、君に辛い想いをさせたくないんだ、君にはたくさんの愛情を一身に受けて一生幸せに生きる権利がある……わかるかい? 僕たちは全く同じ血の流れるたった二人の兄妹なんだよ? お父様とお母様でさえも僕たちを引き裂くことなんてできない……そう、神でさえもそれは不可能なんだ。みんなどうしてそれがわからないんだ。泣いて婚約を拒む君を僕は救えなかった。弱いお兄様だ。これは僕に課せられた罪なんだ。僕が強ければ君を一度、失わずに済んだ。神は僕にもう一度チャンスをくれたんだ。かわいいヴィヴィアン、お兄様のところに戻ってきてくれてありがとう。愛してるよヴィヴィアン。今度は必ず守ってみせるからね。君をもう二度と失いたくないんだ。君を守るためなら僕は悪魔にだってなるよ。痛い思いをさせてごめんね。怖かったよね。でもこうする他なかったんだよ。少しの辛抱だからわかっておくれ。君の本当の味方は僕しかいない。わかるだろう? みんな君を道具としか思っていない。君と僕は満たされていた。僕は君がいれば他は何もいらなかったし、君も僕がいれば他は何もいらなかっただろ? それを許す者はいなかった。君の婚姻なんて間違っていた。お父様もお母様も憎い。どうして愛する二人が共に過ごすことすら許されないんだ。ヴィヴィアン、君は僕だけのものだ。誰にも渡さない。かわいそうなヴィヴィアン、僕のためにこんなにも泣いてくれるんだね……。ああ、可哀想なお姫様。どうか僕の手を離さないでね。今度こそ絶対に離さないから。どんなことをしても君を守るよ。君は僕のすべてなんだ。君さえそばにいてくれたら何も望まない。ヴィヴィアン、僕のかわいい妹……もう大丈夫だよ。安心していいんだよ。君を苦しめるものは全て排除してあげるからね。これからはずっと一緒だよ。この手で守るよ。そして二人で永遠に幸せになろう。約束するよ、僕たちの未来は輝いている。主はアダムを深い眠りに落とし、彼の肋骨を1本抜き取って、女を造り上げた……イヴはアダムの一部だった。君も僕の一部だよ。でも君を失ったら僕は生きる意味を失ってしまう。二人だけの、完璧で幸せな未来を掴み取ろう。君と僕だったらそれができる。だからお兄様も信じてね。さぁ、涙を拭いてあげる……もう泣かないで、何も恐れることはない。お兄様がついているからね。ラインハルトにもジークフリートにも君は渡さない。あの二人は君にふさわしくない。心優しくてかわいいヴィヴィアンが傷つくのを僕は見たくないんだ。彼らからどんな言葉を聞かされたか、僕は聞こうとは思わない。なぜなら彼らの言葉はすべてかりそめで、でたらめで、君を騙すために悪魔から遣わされた蛇のささやきに過ぎないからだ。本当の愛の言葉をきみに言えるのは僕だけだよ。僕の言葉は全て真実だよ。僕以外の言葉は聞かなくていい。僕以外の言葉は君を惑わせて苦しめるだけだよ。君に何度でも愛していると言うと。愛しているよ、ヴィヴィアン。もちろん行動でも示すけど、言わせておくれ。僕は君を愛している。大切な妹、可愛い妹、僕の可愛いお姫様。愛しているよ、ヴィヴィアン。ねぇ、君の口からも愛していると言ってほしいな。もちろん無理強いはしないよ。君が自分の意思で言いたくなるように頑張るからね。愛の言葉は心の底から言えなければ意味ないからね、わかってるよ。君のことを全て分かっているよ。恥ずかしいんだね。大丈夫。ゆっくり時間をかけて言えるようになればいいからね。愛しているよ、ヴィヴィアン」


 毎日呪詛のような言葉を聞かされ、昼間でも暗い地下牢からは一歩も出ることは許されず、レアは肉体のみならず精神状態まで限界を迎えていた。


「ヴィヴィアン殿下、今夜はエーデルラントの皇太子を招いてパーティです」


 地下室を出る頃にはまともに歩けないどころか、声帯も萎縮して会話にも応じられない状態になっていた。

 目は虚ろで、もはや正気を失っていることは誰の目から見ても明らかだった。


読了ありがとうございました。

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