25-折檻
シャルマニアの宮殿に戻り、レアはヴィヴィアンの部屋ではなく地下に通される。
「あの……どうして地下に……」
アランは黙り込み、レアを先導する。
ランプがなければ暗くて足元も覚束ないような場所だった。
アランが立ち止まると、数人の男たちが最後からレアを羽交い締めにする。
「!?」
抵抗する間も無く、レアはドレスを剥ぎ取られ、下着姿で手足を拘束された状態で地下牢に押し込まれる。
「こんなこと、私もやりたくないのですよ。
ですが、我が主がそれを望まれているのです……」
アランが申し訳なさげに語る。
彼の主__オーギュストがこうするように指示したのか。
『偶然再会したかつての想い人と隠れて逢引をしていた』
彼らにとっては計画の破綻に繋がる迷惑行為だろう。
だが、こちらの言い分を聞かずにこんなことをする必要があるのか。
自分はこれから何をされるのだろうか。
このままこの暗い地下牢に閉じ込めるのか、何かしらの折檻を行うのか。
「アラン、お願い、聞いて……あの夜は」
鉄の扉がゆっくりと開かれる音がレアの声を遮る。
地下室に入ってきたのはオーギュストだった。
柔和な笑みを浮かべてはいるものの、手には鞭が握られていた。
「ヴィヴィアン、お仕置きの時間だよ」
ランプの灯りが彼の顔に影を落とす。
瞬間、レアは激痛に体を仰け反らせた。
背中に鞭を一振り。
手加減はなく、呼吸も満足にできなくなった。
物理的な痛みを伴う折檻は初めてだった。
娼館では彼女は商品だった。
売り手が商品にわざわざ傷をつけるような馬鹿な真似はしない。
せいぜい物置に閉じ込めるか、寒い冬の夜に下着姿で庭の木に縛り付けられるかだった。
だが、ここでは彼女は商品ですらない。
「オーギュスト殿下、背中はドレスが着れなくなります……」
「別にいいよ、ドレスなんか着なくたって、ヴィヴィアンはかわいいよ」
オーギュストは優しく「ね?」とレアに向き直る。
なぜ、この男は最愛の妹の名前を呼びながら、笑顔で鞭を振り降ろせるのだろうか。
激痛で身体中から汗が吹き出し、震えが止まらない。
「アラン、ヴィヴィアンに聞きたいことがあるなら、勝手に質問しなよ」
オーギュストは再び鞭を振り下ろす。
叫び声すらあげられなかった。
「レア殿、あの晩の皇太子と、ジークフリート殿との会話を全てお聞かせいただけますか」
アランの頬が叩かれる。
「ヴィヴィアン、でしょ?」
「申し訳ございません……」
狂ってる。
そういうことか。
この男は、国のためではなく、自分の快楽のために動いている。
最愛の妹によく似た自分を痛ぶり苦しめることを心の底から楽しんでいる。
彼が婚約破棄に躍起になっているのは、妹の代用品を手元に置いておくため。
だとしたら、オーギュストには絶対に、ラインハルトから持ちかけられた取引のことを話してはいけない。
ラインハルトが偽装結婚を成立させるためにヴィヴィアンと婚約破棄するつもりがないと言えば、彼の行動はさらにエスカレートするのではないか。
彼らはまだ自分を殺すことができない。
すくなくとも、二ヶ月後にこの国で開かれるパーティまでは……
鞭で打たれる痛みに、レアは歯を食いしばって耐え続けた。
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