表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/34

23-白薔薇の庭園、青い瞳の青年


『日をまたぐ頃、北の離宮の中庭、白薔薇の咲く庭園に来るといい。

 ()()()()()()、その顔を使って、ジークフリートに愛されてみろ、』


 その言葉の通り、レアは深夜になると寝室を抜け出し、白薔薇の庭園に足を踏み入れた。

 ラインハルトの言う通り、ジークフリートは現れた。


 彼は何も知らされていないのか、困惑した様子だった。


 大丈夫、全てうまく行く。





 初めてを愛すべき者へ捧げられたら、どんなによかっただろうか。

 娼館に売り飛ばされ、14歳で破瓜を経験した時、ただ迫り来る痛みと恐怖に支配されて、それがどういうことなのか考えることすらできなかった。

 1年、2年と時を経ることに、その出来事は記憶から薄まるどころか、自分の中で色濃くなっていき、思い出す度に自身の惨めさと無力感に苛まれた。


 綺麗な海で死んで、手垢まみれのこの身体を洗い流したかった。


 ヴィヴィアン王女になれと言われた時、ヴィヴィアンとしてジークフリートに愛されろと言われた時、

 私は自分以外の誰かとして生きることに全く抵抗を感じなかった。


 レアを殺せる。

 夜な夜な男と肌を重ねる惨めな娼婦のレアが死んで、綺麗なドレスに身を包んだお姫様のヴィヴィアンだけが残る。


 ヴィヴィアンは処女だ。

 ヴィヴィアンは私と異なり、愛する者に初めてを捧げることができる。


 愛する者から、優しく抱きしめられ、繊細なガラス細工のように大切に扱われたら、どんなに幸せだろうか。


 私だってヴィヴィアンを選ぶ、男の人なら尚更……

 何十人もの男を受け入れ、汚れきった『レア』よりも、綺麗な躰の、まだ何も知らない無垢な『ヴィヴィアン』を選ぶはずだ。



「君じゃだめなんだ」



 彼の言葉に、我が耳を疑った。

 顔を上げると、ジークフリートはレアの肩に手をかける。


「俺が愛しているのは、あの子だけなんだ……」

 彼の瞳から一筋の涙が流れる。


「絵葉書の海の絵に目を輝かせて、涙を流し、自分を見ると安心したように笑ってくれるあの子が……

 それが愛ではなく、哀れみと言われても構わない」


「俺はあの子に笑ってほしかった……」


 ジークフリートは一歩、下がる。


「……申し訳ございません」


 彼はヴィヴィアンではなくレアを選んだ。

 そしてそれを貫き通した。


 レアは喜ぶべきなのか、落胆すべきなのかがわからなかった。


(だから私は、あなたのことを好きになったんだ)


 最初は彼の青い瞳に死を見出した。

 だが次第に、彼自身と共に過ごすことに喜びを感じられるようになった。


 きっと私もそうなんだ。

 同じ青い瞳でも、ラインハルトではここまで好きになることはできなかっただろう。


「困らせるようなことを言って、ごめんなさい」


 ジークフリートから拒否されてしまったら、ラインハルトはどうすることもできないだろう。


「あなたさえ良ければ、お友達になってくれませんか」

「えぇ、もちろん。光栄です」


 時間はある。

 婚約破棄をしてもらうのなら1年の期限があるが、ジークフリートのことは急ぐ必要がない。

 ラインハルトの思惑通り偽装結婚に応じれば、いくらでもチャンスがあるはずだ。


「また、」


 別れの言葉を告げ、レアはそこから立ち去ろうとする。

 だがその別れの言葉に、ジークフリートは既視感を抱いた。


 レアとの最後の会話。

 それも「またね」と次の再会を願うものだった。


 その既視感はすぐに彼の願望と結びつく。


「__レア?」


 それは疑問ではなく、確信だった。


読了ありがとうございました。

よろしければブックマーク・いいね、☆☆☆☆☆から評価いただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ