21-白薔薇の庭園、黒髪の少女
ラインハルトから「北の離宮の白薔薇の庭園に読書用の眼鏡を忘れた、取ってこい」と命じられたが、庭園のどこに忘れてきたのかは覚えていない、の一言。
そもそも自分は彼が眼鏡をかけている姿など見たことがない。
しばらく庭園で時間を潰してから、探したが見つからなかったとでも言えばいいか。
彼の元で働くようになって一ヶ月が経つが、ラインハルトは常に不遜で傲慢な態度ではあるものの、こちらに対しての要求は少なく、常にそばで控えて、時々発する彼からの命令に従うだけでよかった。
その命令の内容は大小様々ではあるものの、今回の命令のように適当に受け流せるものも多いので気が楽だった。
だが庭園には先客がいた。
小柄で、華奢な躰をした黒髪の少女。
__レア?
思わずそう言いかけた。
視線に気付いたのか、少女はこちらを振り返る。
それは先ほどのパーティの来賓者の、隣国の王女だった。
彼が失い、今も恋い焦がれている少女によく似た、シャルマニアのヴィヴイアン王女。
王女がこんな時間に、しかも護衛もつけずに一人で出歩いていいものなのか、
困惑するジークフリートに、ヴィヴィアンはゆっくりと歩み寄る。
「どうしてこんなところに……」
その言葉に、ヴィヴィアンは困ったような表情で顔を伏せる。
散歩に出かけて迷子にでもなってしまったのだろうか。
「……こんな時間にお一人ですか? よろしければ、部屋まで案内いたしますが」
黙って首を横に振る。
その仕草は、レアの仕草と全く同じ。
(仕草だけはない、こんな風に困った顔して俯いて、口下手なのも、あの子そのものだ)
ヴィヴィアンは恐る恐るといった様子で口を開く。
「ジークフリートさん、少し、話しませんか」
緊張しているのか、僅かに震えている。
「あなたの想い人の話……もっと聞かせていただけませんか」
きっと彼女は、先ほど自分が無様に晒した醜態のことを気にしているのだろう。
もうこの世にいない想い人に似ていたからと、初対面の人間の、しかも王族に対して弱音を吐いて、それを聞かされて気にしないはずがない。
王室侮辱罪で告発されても文句は言えないだろう。
「あまり、人に聞かせるような話ではありません……」
「でも、私は、その人にとてもよく似ているんでしょう?」
似ているなんてものじゃない。
見れば見るほど、目の前のヴィヴィアンは顔立ちも、綺麗な黒髪も、華奢な躰も、仕草も、態度も、レアそのものだった。
口調こそ違えど、落ち着いた話し方だって……
自分はなんて単純な人間なのだろう。
ただ似ているから、それだけでこんなに目の前の少女に揺さぶられているなんて。
この少女が本当はレアなのではないかと、荒唐無稽なことすら考えている。
話してしまえば楽になれるだろうか。
「名前は……レアでした」
場合によっては目の前の王女は無礼だと言って怒りを露わにするかもしれない。
それでもよかった。
王室侮辱罪で告発され、処罰を受けようとも、自分には失うものがない。
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