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 連れてこられたのは霊園だった。

 立ち並ぶ墓の一つで、ラインハルトは足を止めた。


「お前は自分の母親の墓すら知らないだろ」

 

 墓石には母の名前が彫られている。

 没日は、間違いなくジークフリートが母から引き剥がされ、伯爵家に連れて行かれた日だった。


 墓の前には、まだ供えられたばかりであろう、瑞々しい花束がある。


 もうあれから15年が経っている。

 この花を置いたのは一体誰なのだろう。


 ここに母が眠っているのか。


 ジークフリートは墓の前に跪く。

 母のことを悼むべきなのに、彼の頭に浮かんだのはレアのことだった。


 そして寂寥感に苛まれた。


(なぜ、俺の大切な人は……)


 二人の人間の死が彼に重くのしかかり、否が応でも彼は自身の無力さを痛感させられた。


 それを知ってか知らずか、ラインハルトはジークフリートの肩に手を掛ける。

 

「もう一つ、墓参りをさせてほしい」


 早くこの場から離れたい。

 ジークフリートは黙ってそれに従うことにした。



 今度は宮殿からほど近い大聖堂だった。


 この大聖堂には、この国の歴代の皇帝とその関係者たちが眠っているはずだ。

 だが地下にある皇家の墓は通常は立ち入りを禁じられている。


 しかし守衛はラインハルトを見ると、恭しく挨拶をすると、すぐに地下に続く扉を開ける。

 それを見てやっと、目の前の青年が本物の皇太子ラインハルトなのだと信じ始めていた。


「ジークフリート、お前の母の墓に置かれていた花は、誰が置いていったものだと思う」


 納骨堂を歩きながら、ラインハルトは呟く。

 答えを待たずに彼は続けた。


「奇妙だと思わないか。

 一国の皇帝とあろうものが、暇を見つけては、かつて自分に仕えていた侍女に花束を持って会いに行くなんて」


「一方で、ここには式典の時以外には訪れようともしない」


「余の母がここに眠っているのに」


 怒りとも悲しみとも取れない表情だった。


(この男も母親を……)


 ラインハルトは一つの棺の前で足を止める。

 

「余の母は、失意のうちに命を落とした」


 この中で眠っているのが、彼の母親だった。


「健康な皇子を産むことが母の役目、それを果たした母は、皇帝にとってはもはや用済みだった。それでも母は皇帝から愛されることを切望した」


「哀れだ」


 その言葉に感情は込められていない。

 ただ、ありのままの事実を並べただけだった。


「余は皇帝を憎んでいる」


 血は呪いだ。だが愛の呪いよりはましだ。

 そう前置きを置き、


「だからお前の存在を知った日から、お前を側に置きたいと願い続けた」


「ジークフリート、余は家族が欲しい」


 母の棺の前で微笑むラインハルトの姿は、初めて会った日に「あなたが欲しい」と涙ながらに懇願したレアと重なった。


 あの子も、自分に対して何かを求めていた。 

 それが何だったのか、もう確かめる術はない。 


「もう軍にいてもお前の望みは叶わん。お前は退役するまで安全な場所で、後方支援か駐屯業務にしか就けない」


 なぜそう断言できるのか。

 ラインハルトは言外に「自分が手を回すからな」と告げていた。


「宮殿に来い、」


 母の死、レアの死、そこに知りたくもなかった自分の出生の話も聞かされ、もはやこれまでのように生きていけるとは思えなかった。

 最初から、軍に残る理由もなかった。


 ジークフリートはラインハルト__自らの兄に、欲しいもの(家族)を与えることを選んだ。


読了ありがとうございました。

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