19-兄弟
母親に似ていると言われたことは一度もなかった。
顔立ちも、髪の色も、目の色も、どれ一つとして母から受け継いだものはない。
だが母から「あなたは父親に似ている」と言われたこともない。
それでも鏡を見る度に、自分の父親がどんな顔をして、どんな髪の色で、どんな目の色をしているのか、否が応でも直視させられた。
目の前の男は髪の色こそ違えど、その顔も、目の色も……
この男に感じている、初めて会ったとは思えない懐かしさにもよく似た既視感……
それはまるで、自分の鏡に映った姿を見ているかのような気味悪さと合わさり、恐怖すら感じた。
ブロンドの青年は、ゆっくりと口を開く。
「……ジークフリート・フォン・ヘッセンバーグ。
母親の死後、皇帝の側近であるアメリア・ミュラーの親友の子ということで、皇帝の取り計らいでヘッセンバーグ伯爵家の養子として迎えられる」
なぜこの男は自分のことを知っているのか。
どうしてこの手紙を持っているのか。
「だがヘッセンバーグの家はお前を息子たちと同じように扱いはしたが、息子たちと同じように愛してはくれなかった」
問い詰めたいという気持ちと、これ以上聞きたくないという感情がせめぎ合う。
「自分を愛してくれた者を失い、新しい家族からは愛されず、最後には愛する者を失ってしまった……哀れなものだ」
もしこの手紙の内容が本当だとしたら、自分は……
「余の名前はラインハルト・ユリウス・フォン・エーデルラント」
「お前の兄だ」
エーデルラント。
この国の名を名乗れる人間は限られている。
ジークフリートはその名前を知っていた。
(この国の皇太子……)
いや、そんな馬鹿げた話があるはずがない。
この手紙だって、悪い冗談だ。
目の前の男は自分を皇太子と言い張る、ただの狂人と言われた方が真実味がある。
半信半疑のジークフリートを前に、ラインハルトと名乗った男は立ち上がる。
「余と一緒に来い」
断る間も無く、ラインハルトはジークフリートの手を取る。
そして応接室から出て行き、肩で風を切り兵舎の廊下を堂々と歩く。
監視役は応接室を出て行く二人を止めようとすらしなかった。
それどころか、すれ違う軍の人間たちも、誰一人として彼らを止めることはない。
二人と目を合わせようともせず、黙って道を譲る。
中には会釈する者すらいた。
(一体、何が起こっているんだ……)




