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18-出生


 ジークフリートはレアのことを本気で助けようとしていた。

 あの場所から助け出して、あの子の自由を取り返したかった。


 あの子を自由にできたら、まずは綺麗な海を見せたい。

 そして、あの可愛らしい笑顔を見られたら自分は満足だった。


 だからレアの死の報せを支配人から聞かされ、払っていた頭金を返されても、ジークフリートは暫しの間それが理解できなかった。


 次第に、もう二度と会うことができないという事実に打ちひしがれ、好きではない酒を飲み、ろくに睡眠も取れずにひどく憔悴した状態になった。


 普段は真面目すぎる、硬いと言われていたジークフリートが、ある日を境に夜になると兵舎を抜け出し足繁く娼館に通っていることを微笑ましく見ていた者たちも、その様子ばかりは看過できなかった。


 ついに上官から次の任地の変更を言い渡された。

 配属先は安全な地域での駐屯業務で、彼の希望していた物とは真逆のものだった。


「今のお前が危険な地域に行ったとしても、大怪我するかあっさり命を落として、部隊の士気を下げるだけだ」


 余計な気を遣わなくていい、変更を取り消してくれと言うと、上官は呆れた様子で、


「自殺志願者に死に場所を用意してやるのが俺たちの仕事じゃない」


 その言葉はジークフリートに突き刺さった。

 気付いたら、上官の首元に掴みかかっていた。


「……謹慎処分だ」



 ♢


 

 二週間の謹慎処分。

 禁錮室か伯爵家への一時帰宅を選べたが、ジークフリートは迷わず禁錮室を選んだ。

 禁錮室の中で、彼は一日中何をするわけでもなく、ベッドに腰掛け、ただぼんやりと壁を見つめるだけだった。


 監視役が禁錮室の扉を開ける。

 まだ二日目だった。


「お前に客人だ、出ろ」


 自分に客人?

 客人が誰なのかも聞かされないまま、ジークフリートは応接室に通された。


 応接室にいたのは仕立ての良い服を纏い、プロンドの髪を長く伸ばした、貴公子然とした男。

 腕を組み顔を伏せ、表情は窺い知れない


 こんな男が、一体何の用があるのだろうか。

 男はジークフリートが自分の向かいの椅子に座ったのを確認すると、一通の手紙を取り出す。


「まずは、これをお前に読んでほしい」


 男は挨拶もなしに、それをジークフリートに渡す。


「……?」


 古いもののようで、すでに封も切られていた。

 だが差出人を見て、ジークフリートは目を見開いた。


 母の名前だった。

 ジークフリートはすぐに手紙を取り出し、中身を確認した。


 間違いなく母の字だった。

 しかし手紙に書かれている内容は、およそ彼が予想せぬものだった。


『親愛なるアメリア、かつての同僚であるあなたにお願いしたいことがあり、不躾を承知で手紙を(したた)めております。

 八年前に何の前触れもなく消えた私からの手紙に、あなたも戸惑っていることでしょう。

 私は薄情にも、同僚であり親友であるあなたにすら何も告げず、全てを捨てて宮殿から逃げ出しました。


 ですが弁明するならば、それは私に授かった小さな命を守るためにはそうするしかなかったのです。

 全て隠して逃げなければ、この子に危険が及ぶ可能性がありました。


 子の父親は皇帝陛下です。


 息子の顔を見れば、誰もがそれを認めることでしょう。


 アメリア、私は病でこの先が長くありません。

 どうか息子だけでも、救いの手を差し伸べていただけるようにと、皇帝陛下に取り計らっていただけないでしょうか。


 それだけが私の願いです』


 その内容を(にわか)には信じることができず、男を見やる。


 男はゆっくりと顔を上げる。

 青い瞳がこちらを捉える。


 その瞬間に、全身に電流が走ったかのような衝撃を覚えた。


読了ありがとうございました。

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