17-レアとの出会い
初めて彼女を見た時「どうしてこんな子供が、」と感じた。
遠征を終え久しぶりに皇都へ戻り、成功報酬も得て、機嫌を良くした上官が「夜の街ヘ行くから若い奴らはついて来い」と言い出したことがきっかけだった。
「お前の希望配属先が通るように、俺が推薦してやるから」
だからお前も来い、という言外の圧力。
ここで固辞する方が後でめんどくさくなる。
次の任地が決まるまでの我慢だ。
他の者たちが浮き足立つ中、ジークフリートだけは不機嫌極まりないと言った様子だった。
准尉になると、激戦区が任地になることが減り、割り当てられる仕事も後方支援が多くなる。
昇進するつもりはなかった。
たまたま今日まで死に損なっただけ、もしくは自分を養子に取った伯爵家の威光が働いているのか、いつの間にか将校と呼ばれる立場になっていた。
二等兵のころから軍内部の規律や不文律の数々に辟易していたが、昇進したところでそこから解放されることはなく、ただ煩わしさの種類が変わっただけだった。
かと言って他に生きる方法もわからず、ダラダラと残り続け、早くも5年が経っていた。
上官に連れてこられたのは娼館だった。
興味ない、部屋で眠るだけだから、一番大人しいのをと言った自分に割り当てられたのは、この国では珍しい黒髪をした、華奢で小柄な身体をした少女だった。
所在無さげに俯いており、言われた通り「店で一番大人しい」娘なのだろう。
自分にそんな趣味はない、と言いかけたが、どうせ部屋で眠るだけだから堪えた。
(こんな子も、こんなところで働くのか……)
自分を部屋まで案内する少女は、娼婦のイメージからは程遠く、今にも折れそうな細い手足には痛々しさすら感じた。
しかし部屋に入ってから、沐浴のために何の抵抗もなく異性の前で服を脱ぎ、慣れた手つきで背中を流しているのは、彼女はやはりそういった仕事をする人間なのだと窺わせた。
自分の体の傷を見て悲しげにしていたので、気を逸らすために何の気もなしに海の話をすると、少女の声音が明るくなった。
海に興味はあるが、一度も見たことはないらしい。
沐浴を終えた後に、上着のポケットに入れっぱなしになっていた海の絵葉書を見せたら、少女は目を輝かせてそれを見つめた。
その様子は年相応の少女の顔をしており、かわいらしかった。
そう思っていたのも束の間、少女は突然嗚咽まじりに涙を流し始め、わけがわからなかった。
自分が何か無神経なことをしていたのだろうか、とにかく、少女の涙を止めたい。
しかし、涙の原因が自分だとしたら、どうすることもできない。
呆然と少女を見つめていると、少女は嗚咽まじりに言葉を発した。
「あなたが、ほしい……」
その言葉の意図はわからなかった。
だが、自分がこの子を慰められるなら、と精一杯のことをした。
それは幼い頃に、泣いていた自分に母がしてくれたことだった。
ただ抱きしめて、泣き疲れて眠るまで頭を撫でる、自分はそれだけで安心をして眠りにつくことができた。
少女もそれは同じだったみたいで、安心した。
彼女が眠りについたのを確認し、一足先に兵舎に戻ることにした。
何かする気にはとてもなれなかったが、もし彼女がふと目を覚ました時に同じベッドで男が寝ていたら、不安な気持ちにさせるのではないかと思った。
おそらくもう会うこともなく、自分にできることも何もなく、ただ彼女の心の安寧を願った。
だが自分は、兵舎に戻って、自室のベッドの上に横たわっても、眠りから覚めても、訓練をしていても、頭の片隅では少女のことを考えていた。
(あの子は、今日もあの場所で働いているのだろうか……)
考えたくなかった。
あんな小さな、弱々しい身体で、男の相手をしているとは、想像するだけでグロテスクだった。
あの子がまた泣いていないか、とにかく心配だった。
堪えかねて、結局ジークフリートは再びあの娼館に足を踏み入れてしまった。
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