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13-忠誠


 どうしてジークがここにいるの。

 彼は軍人だったはず。

 一体どういうことなの。


 レアの脳内を様々な思考が駆け巡る。


 だが同時に、その姿を見ることができて嬉しさも感じていた。

 溢れ出そうになる涙を必死で抑え込む。


「何を突っ立っている。とっとと行け、余は忙しい」


 ジークフリートは我に帰り、レアを別室に案内する。

 部屋は豪華な調度品や家具の備え付けられた広い部屋だった。


「私は部屋の外で待機しております。御用があれば何なりとお申し付けください」


「あ……」


 部屋を出ようとするジークフリートを、思わずレアは引き止めようとする。

 ジークフリートも、ドアノブを握ったまま動かない。


 そして振り返るが、すぐに背を向けた。


「申し訳ございません……想い人に、似ていたので」


 ジークフリートは背後の少女がまさかその想い人だとは思っていない。

 レアはすぐにでも「自分がレアだ」と言って、彼に縋り付きたかった。


 今ここにアランはいない。

 しかしジークはラインハルトの騎士、軽率な行動はできない。


 どうすればいい、

 そう思ったが、彼をこのまま見送ることもできなかった。


「……そんなに似てますか、私は」


 彼をなんとか引き留めるために発した言葉は、ヴィヴィアンとしての言葉だった。


「似ているどころか……そのままです、

 一瞬、あの子が生き返ったのかと……」


 アランは娼館の支配人に私の死を偽装させていた。

 彼が私の死を知っているということは、あの後また会いに来てくれていたのだろうか。


「……」


 レアは何も答えることができなかった。

 ドレスの裾を握り締め、涙を堪えることしかできない。


 ジークと再会するためにヴィヴィアンに成り代わると決意したのに、こんな形で再会することになるなんて……


「あの子に海を見せてあげたかった、それが一番の心残りです……」


 レアに背中を向けるジークフリートの表情は窺い知れないが、ドアノブを握る手は震え、深い悲しみに打ちひしがれていることが否応なしに伝わってくる。


 彼は自分が海を見たことがないことをずっと覚えている。

 そういえば、あの時も彼は「君を海に連れて行きたい」と言ってくれた。


 今すぐ彼に駆け寄って、抱き締めたかった。

 これまでの経緯を全て話してしまいたかった。


 そしたら彼は納得してくれるだろうか。


 いや、そんなことをしたらジークを巻き込むことになってしまう。


 彼がヴィヴィアンが偽物だということを知れば、仕えているラインハルトと間挟みになってしまう。

 何よりも恐れているのは、間挟みになった結果、ジークフリートがラインハルトへの忠誠を貫くことだった。


 もしジークフリートが『かつての想い人』であるレアを告発することを選んだら……


 ジークから嫌われたくない。

 年相応の感情がレアを思い止まらせる。


「王女殿下にこのような話をして、申し訳ございません」


 そう言ってジークフリートは部屋を出て行く。


 一人になった部屋で、レアは扉に寄りかかり、息を潜めて聞き耳を立てる。


 ジークフリートの息遣いがわずかに聞こえる。

 レアは目を瞑り、しばらくそれを聞き続けた。


 そうしていると過去に戻れたような気になれた。

 同じベッドで彼の息遣いを聞いているようで……


(王女になんかならなければよかった……)


読了ありがとうございました。

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