Turn 10. 贈り物
御披露目の次の日は昼間でくっすり寝てしまった。とにかく疲れたのだ。起きて一番最初にしたのは父上からもらった指輪の確認だ。
よく見ると指輪の内側と宝石の方に魔法紋が刻まれている。サイズ調整の魔法の他、二種類の魔法が施されてあった。
まず、物理防御魔法。皮の鎧程の防御力を指輪の着用者に提供するもので、そんなに強い防御魔法ではないが、全身が保護されるし鎧と違って動きを邪魔しない。何よりこの指輪を嵌めているだけで常時発動だ。
そして、魔法妨害の魔法だ。これは二つの使い道がある。一つ目は純粋な防御用。初級の状態異常魔法ならかき消せる。二つ目は積極的妨害。これは意識的に使用する必要があるが相手の魔法を妨害し、失敗させるか、効果を低下させる。
私としてはとても嬉しい贈り物だ。お父様いいセンスしている。
そして、騎士武具の確認だ。やっぱり派手だな。知らない人には魔法使いの杖だと言っても信じてもらえるかもしれない。
とりあえず性能を確かめたいのでリアナを呼んだ。リアナに騎士武具を見せるととても驚かれた。
「これはラグナトローンという鉱石ですよ。騎士武具の主材料として最高級の物です」
「そんなに凄いの?」
「この騎士武具に使われている量だと多分小さな城が買えるかと」
どこの伝説の武器なのこれは?!
「ま、まあ。取り合えず性能を確かめたい。手合わせ願える?」
「もちろんです、エリシア様」
リアナと中庭に移動する。相変わらず気持ちいいくらい広い草原だ。
私は魔力を流し騎士武具を剣に変える。練習用では何百回もやったことあるが、本物は初めてである。武具は一瞬光ると長剣に変形した。
形そのものは普通だった。しかし、剣身は黒曜石のような黒で刃は透明度の高い水晶のようだ。剣身の下の方には三つの透明な宝石が縦に並んでいる。ガードの中央には皇室の紋章が刻まれており、柄頭は虎の頭が彫刻されていた。
「どう見ても装飾品にしか見えないな」
試しに剣の第一技の『攻殻』を発動してみる。透明だった刃が青の色を帯始めるとそこから淡い光が剣身全体を覆い範囲を広げ、実態を持たない魔力の刃を形成する。本来の剣から幅は約2倍程広がり、長さは1.5倍程伸びている。試し切りをしたいところだが残念なことに、今日は丸太も木偶も用意してない。
刃を芝生に当てると青い炎に包まれて跡形もなく消滅してしまった。『攻殻』は攻撃範囲と切れ味の上昇効果も持つ技であって炎を出す機能はなかったはずだ。なんかやばい機能が付いている。これは後で試そう。
「まず、何をなさいますか?」
「そうだな。この宝石に刻まれている防御魔法の効果を確かめたい。リアナの騎士武具で私に矢を飛ばして見て」
「そんなできるわけがないでしょう?!何を仰っているのですか?!」
まあ、確かにそうだな。言葉通り主に弓引くことになるか。なんちゃって。
「確か捕縛用の技があったよね。それなら万が一でも問題ないのでは?」
「いや、これリュエル様に見られたら死ぬほど怒られますよ」
「大丈夫。リュエルには絶対に言わないから」
「わ、分かりました。では参ります」
リアナが自分の騎士武具を弓に変形すると捕縛用の矢を形成する。リアナが使うのはイズ評議国の技だが、ロエムの技でも同じような技がある。確かに『縛矢』って名前だった。
命中すると魔法の縄となり相手に絡み付く。主に相手を生け捕りするための技だ。
私が剣を構えるとリアナが矢を放つ。音もなく飛んでくる魔法の矢は、しかし私に到達する寸前に軌道を曲げて明後日の方向へ飛んでいく。今、確かに魔除けと矢除けの魔法の発動を感じた。
「あ」
リアナが拍子抜けしたような声を出した。その視線の先は私ではなく、離宮の方。
「あ」
私も気づいてしまった。今、軌道を曲げた矢が飛んで行った先は確か離宮の方角で
「きゃー!!」
悲鳴が上がった。聞き覚えのある声。これ絶対やばい奴だ。私とリアナは風の如く悲鳴の上がった方に駆けて行くと、そこには捕縛された白猫の獣人が倒れていた。何を隠そう、リュエルである。
その後、リュエルに滅茶苦茶怒られた。今までこんなに怒ったリュエルは見たことなかたな。しかし、縄に縛られて涙目のリュエルがちょっとエロくてドキッとしたのは私だけの秘密である。
次の日、リュエル達が貴族達からの贈り物を持ってきた。やっと検分が終わったらしい。贈り物は宝石と指輪やネックレスなどの装身具の類が多い。他には絹などの織物、工芸品も幾つかある。素人から見ても高そうな物ばかりだ。権力とは縁遠い皇族への贈り物だと言うのにこれだ。上の二人の兄様方の御披露目の贈り物はさぞ凄かっただろうな。
似たり寄ったりの品揃えの中、目を引く物は一つあった。
「これは、剣よね」
柄の材質は象牙の質感のもので色は若干褐色を帯びた黒。柄頭と鍔は金色の金属を使用しており、形はシンプルだが複雑な模様が彫られている。鞘は皮製で色は柄と同じく褐色の入った黒で所々金色の金具が付いており、鍔や柄頭と同じく彫物が施されている。宝石の類は使われていないものの、華麗で品がある。
鞘から剣を抜くと不思議で複雑なパターンの模様のある刀身が現れる。確か地球ではダマスカス鋼と呼ばれていた物と同じのだと思う。長さは腕半分くらいで、幅は一番広い部分が掌程あり、滑らかな曲線を描いている。見た目より重さはない。感じられる魔力から重さ軽減の魔法が施されている事が分かる。
「あら、イズ評議国の品ですね。カオーンと言う短刀で狩りや護身用として広く使われている物です」
「なるほど。これは誰からの?」
「そのカオーンは…ロンバル男爵からの贈り物ですね」
リュエルは「本来ならば成人式の贈り物とするのが普通です」と付け加えた。
「そういえば、ロンバル男爵ってまだ帝都に滞在しているのか確かめてくれる?」
「確認しておきます。エリシア様はあの男爵に何か御用でもお有りですか?」
「ちょっと話が聞きたくてね。イズ出身の虎人族で、母上の従弟らしいけど。リュエルは聞いたことある?」
「え?ルピス陛下の従弟ですか?ロンバル男爵の下の名前は何と?」
「ゼリックだった」
「まあまあまあ〜!ゼリック様ですか?!成人した後に家を出て音沙汰なかったのですが、まさか帝国の貴族になってただなんて」
リュエルが嬉しそうに驚く。
「やはり知り合いだったのね」
「はい、ヒューレー様とルピス陛下はゼリック様ととても仲がよかったのです」
ヒューレー様とは母の兄で元伊豆評議国の議長のことだ。元が付くのは評議国の議長の職は10年の任期がある為ある。6部族の連合国家である評議国は各部族の長が順番制で議長を務めることになっている。
「ねえ、リュエル。もし男爵がまだ帝都に滞在中だったら、お茶会に誘いたいけど、いい?」
「はい、そのように準備いたします」
幸いロンバル男爵は未だ帝都に滞在中だったので、招待状を出した。男爵とのお茶会は三日後の予定となった。




