Turn 9. 御披露目
やっと御披露目の日がやって来た。今日を乗り越えれば、礼儀作法の授業と着せ替え人形の毎日からついに開放される。服を誂えるのは結構楽しかったがそれも最初だけ。細かい調整や衣装に合わせる装飾品選びを何ヶ月もやらされたら誰でも嫌気がさすと思う。
本日の衣装は水色を基調とした薄い生地のドレスである。頭には紅玉の嵌められた銀のティアラ。ドレスの上の方の装飾はやや控えめな反面スカートの方は派手でレースをふんだんに使い、腰のには白い帯に大きいな青バラの花の飾りを飾ってある。そしてベールのような透けた生地でできたケープを纏い赤い宝石が埋め込まれた銀のブロッジで止める。尻尾の方にも可愛らしい水色の薄い生地のリボンを付けている。
全体的に青と白で涼しい感を出している。まあ、夏だしね。生地は薄いもののそれでも結構暑いので、とりあえず暑さ除けの魔法を掛けておく。
「エリシア様、間も無く入場ですが、大丈夫ですか?」
リュエルが心配そうな顔で聞いて来た。ここの門を潜れば一人だ。エスコートもない。
「大丈夫よ、心配しないで。騎士の試験に比べれば気楽なもんよ」
そして、入場の知られる鐘がなり、目の前の巨大な門がゆっくりと開かれる。
目に入るのは、広いダンスホールのような式場。中央には赤いカーペットが敷かれ、その両方にはたくさんの貴族たちが並んでいる。
一番奥の方には、父上、皇帝陛下と他の皇族が鎮座している。二人の皇妃と二人の皇子そして一人の皇女だ。父上とベイロン兄様を除けば全員本日初対面である。
もう一人の皇子が、恐らく第二皇子クルス。EoCに於けるエリシアの殺害者。そして多分、遠からぬ内、私は彼に殺されるかもしれない。
私はゆっくりと前に進む。貴族たちの方は敢えて見ない。視線も無視する。変に緊張してしまうかもしれないので意識しない方が一番いいと思う。
背景に流れる音楽のみに集中する。視線はまっすぐ前へ。
私が一番奥に着くと、父上が席から立つ。
「綺麗だな、エリシア」
「ありがとう存じます」
騎士の試験に比べたら気楽だのとリュエルには強がって見たわけだが、正直緊張する。上手く笑えているか怪しい。何せ、次は他の皇族に挨拶をする番なのだ。
まず、第一皇妃、アデルリーア。ベイロン兄様の母君で現東の公爵の妹君に当たる。
「誕生日おめでとう。ベイロンから噂は聞いてましてよ、エリシア。才色兼備とはまさにあたなのことですのね。とても綺麗ですわ」
「お褒めいただき光栄です、陛下」
「これからはノエルとも仲良くしてね」
アデルリーア陛下は好感触だ。敵意はなさそうだ。問題は次の方だな。
第三皇妃セレーネー。現南の公爵の従姉妹。クルスの母である。
「お誕生日おめでとう。可愛らしい耳と尻尾ね。とても似合っているわ」
褒められている気がしない。多分気のせいではない。まあ、南は獣人嫌いの傾向が強いらしいし仕方ないか。昔イズ評議国と領土の奪い合いが一番激しかったのが南の公爵領だそうだ。
次は第一皇子、ベイロン兄様だ。
「いつもなく緊張しているね」
「当然ですよ。早く終わりにしたい気分です」
「うん、その気持ち分かるよ。誕生日おめでとう。凛々しく剣を振るう姿も素敵だったけど、今日のドレス姿もとても似合ってる。綺麗だよ」
「ありがとう存じます」
そして、第二皇子クルスの番だ。ベイロン兄様より二つ年下の筈だが、背は頭一つ分ほど高い。目は鋭く、結構威圧感のある雰囲気だ。私が初めましての挨拶を述べると彼は優しく笑う。
「初めまして、エリシア。誕生日おめでとう。ベイロン兄さんとはずいぶん仲が良さそうだね。これからは私とも仲良くしよう」
できるかい?!って割と普通な感じだ。顔はちょっと怖いけど、今のところは彼が私を殺すなんて想像できない雰囲気である。
最後に第三皇女のノエルだ。ベイロン兄様の実妹で、私より一つ年上だ。赤味のある栗色の髪と釣り上がった目が活発そうな印象を与える。大きくて綺麗な青色の瞳はキラキラと私を見つめていた。
「初めまして、ノエルよ。あたなの姉になるわね。姉様とお呼びなさい」
何この生き物可愛い。
「はい、お姉様。これから仲良くしてくだいさいね」
分かりやすく喜んでいる。とても嬉しいそうだ。ノエルとは良好な関係を築けそうな気がする。
皇族への挨拶を終えて、父上の元に戻る。父上は集まった貴族たちに向けて私を紹介と祝いの言葉を述べる。その後、太陽と成長を司る神テイーの司祭よる祝詞と私への祝福が行われた。
普通の御披露目の式順なら次は貴族達が誕生日を迎えた皇族への挨拶を行う番である。だが今日はちょっと違う予定が挟んである。
「次は、我が娘エリシアへの魔法士と騎士の称号の授与を行う。宮廷魔法士、近衛騎士団長は前へ」
場が騒めく。それはそうだ。8歳で騎士と魔法士の称号を得るなど普通あり得ないようだし。恐らくこの情報は貴族たちには事前に渡っていなかったらしい。
宮廷魔法士と騎士団長が父上の元に参る。各々の手には華麗な箱を持ち、父上の前に跪いた。まず、宮廷魔法士が恭しく箱を開けると、そこには緑の宝石が埋め込まれた小さな金の指輪が入っている。父上がそれを手に取り高く持ち上げる。
「まず、中級魔法使用者として正式に魔法士の資格を得た証としてこの指輪を贈る」
その指輪は父の手によって私の左人差し指に嵌められた。大きめな指輪は微かな光を発すると私の指にビッタリのサイズとなる。魔法の指輪か。他にも魔法が掛けられているようだ。後で調べてみよう。
次は騎士団長が箱を開けると、そこには恐らく騎士武具であろう物が入っている。騎士武具だよね?他に騎士の証として授与される物が思い浮かばない。
だって、あんな派手な騎士武具見た事ない。普通の騎士武具は金属材質のシンプルな棒なのだ。デザインは指揮棒に似ている。色は様々だが単色の物しか見た事ない。
父はそれを手に取り先の指輪と同じく持ち上げる。
「そして、近衛騎士団長自ら執り行った騎士試験で見事合格を勝ち取った証として、騎士の称号と共に騎士武具を与える」
父上から渡された騎士武具は、まず材質が不明だ。色彩は白と黒。大理石と黒曜石を溶かして混ぜ合わせ固めたような不思議な材質でできたそれは透明度があり水晶のような質感であった。施された虎の彫刻は材質の複雑な模様はとても調和が取れている。本当に白虎のような模様だ。真ん中には皇室の紋章が刻まれ、紋章の部分だけは金箔でも貼ってあるのか金色である。そして先端近くに三つの小さい宝石が埋め込まれてある。宝石の種類は分からないが、ダイアモンドみたいに透明な宝石の中には文字のような物が刻まれている。これは魔法紋だ。増幅、魔除け、矢除けの魔法紋が刻まれたその宝石はうっすらと光を帯ている。これ本当に騎士武具だよな。
普通の騎士武具よりも余程手の込んだ逸品である事は分かった。早く性能を試して見たい。
授与の後、貴族たちからの挨拶の時間だ。決まった言葉の遣り取りの繰り返しなのでこの上なくつまらない。私への贈り物は嬉しい。心が籠もってなくても、すべて高い品なのだ。
頭を空にして機械的に応酬していると虎の獣人がやってきた。近衛騎士団長といい勝負できそうな巨漢である。何故、獣人がいるのか不思議で仕方ない。
「お初にお目にかかります。西の公爵がルスティエール・ラムデール閣下の名代として参上いたしました、公爵家騎士団副団長のゼリック・ロンバル男爵です。以後お見知り置きを」
あ、この人がゼリックか。彼はEoCのキャラだ。四人の主人公の一人である西の公爵ルスティエールの武将だ。西の公爵領はイズ評議国との関係も良好で、交流も盛んでいる。多分、帝国で獣人の貴族が存在するのは西の公爵領くらいだろう。
それにしても純粋な虎人族は迫力が違うな。
「ようこそ男爵。まさか、ここで同胞に会えるとは思いもしなかった。歓迎するよ」
「有難うございます。いやはや、騎士にして魔法士とは。エリシア殿下は噂以上に素晴らしい方ですな。イズ評議国出身として鼻が高いです」
「あら?ロンバル男爵はイズ出身なの?」
「はい。実は殿下の母君であらせられるルピス陛下は私の従姉に当たります」
そんな設定だっけ?親族を使者に出すとは、西の公爵には何が意図があると思っていいかな。
うむ、ここはどう対処するか。ゲームでの西の公爵はエリシアに対して中立の姿勢だった。
エリシアルートで西と友好な関係を結ぶとクルスや南の公爵討伐がかなり楽になる。今から良い関係を築いて置いても悪くないと思う。
「男爵は母上や伯父上のことをご存じで?」
「はい、幼い頃よく一緒に遊びました」
「それは是非話が聞きたい。それと、イズ評議国の話にはとても興味ある。後で聞かせてくれる?」
「はい、喜んで。本日は公爵と私からの贈り物をお持ちしました。お納めください」
「ありがとう。ではまた後で」
その後、長々と貴族達の応対をし続けた。全員の挨拶が終わるのに2時間以上掛かったと思う。
8歳の子供にはあまりにも重労働なのでは!?と思ったら元々何回か休憩を挟むのが普通らしい。私があまりにも平気な様子だったのでそのまま続けたそうだ。それ先に言え。




