第46話:水道のひんやり、三人のないしょ話
「ちょっと冷たいよ、我慢してね」
チカが優しく蛇口をひねると、透明な水が揺里の肘の下をサラサラと流れ落ちていく。水道のひんやりとした冷たさが、擦り傷のジンジンとした熱を心地よく静めてくれた。
マイが横から、伊織くんから手渡されたばかりのブルーのチェック柄のハンカチをそっと差し出す。
「はい、ゆらりん。これで優しく押さえて」
「うん、ありがとう」
揺里がハンカチを肌に当てると、昨日の夜、自分の部屋で一生懸命にアイロンを当てたときの、あのラベンダーの香りが水分と一緒にふわりと舞い上がった。一度は伊織くんのポケットに収まったはずなのに、今、こうしてまた自分の手の中にあるのが、なんだかとても不思議な気持ちだった。
チカがポケットから大きめの絆創膏を取り出し、手際よく傷口に貼ってくれる。
「……ねえ、ゆらりん」
マイが美術室の入り口の方をチラリと気にしながら、小さな声でささやいた。
「やっぱりあのハンカチ、伊織くんのだったんだね。さっき休み時間に返したばっかりなのに、また戻ってきちゃうなんて、なんかちょっと少女漫画みたい」
「もー、マイってば……!」
揺里は赤くなった顔を隠すように、ハンカチをぎゅっと握りしめた。
「ただ、伊織くんが慌ててポケットから出しただけだよ。本当に、それだけなんだから」
チカは絆創膏の端をトントンと優しく指で押さえながら、クスッと静かに笑った。
「でも、伊織くんって普段はあんなにお調子者なのに、ゆらりんが転んだときは本気で焦ってた。ヨダレがどうのって意地悪言ってた人と同一人物とは思えないね」
二人の等身大のからかいと、真っ直ぐな優しさ。
隠し事をして一人で泣いていたあの時の苦しさは、水道の冷たい水と一緒に、もうすっかり排水口の向こうへと流れ去っていた。
「……ありがと。二人とも」
揺里は綺麗になった腕を見つめながら、心の底から微笑んだ。
手の中にある、少し湿ったブルーのチェック。
自分で綺麗にアイロンをかけたはずのそれが、友達のぬくもりと、クラスの男の子の不器用な優しさを乗せて、また少し違う愛おしい重みとなって揺里の胸をトクンと弾ませていた。




