↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それのどこが悪い!?【完全版】  作者: ぬこのここぬこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/62

第38話:夕食後のキッチン、小さくほどけた秘密


「ただいま」


玄関のドアを開けると、香ばしいお味噌汁の匂いが揺里を優しく迎えてくれた。


おうちに帰ってきてからも、スクールバッグの中にあるブルーのチェック柄のハンカチのことが、ずっと頭の片隅から離れなかった。


自分でこっそりお風呂で洗おう。そう思っていたけれど、夕食を終えて自室に戻ろうとしたとき、やっぱり揺里は足を止めた。


友達に嘘をついてあんなに苦しい涙を流したばかりなのに、またお母さんにまでコソコソと隠し事をするのは、どうしても嫌だった。


揺里は意を決して、バッグの底からハンカチを取り出すと、キッチンで片付けをしていたお母さんの後ろ姿に歩み寄った。


「……あのね、お母さん」


「ん? どうしたの、揺里」


お母さんが振り返る。揺里は少しだけ緊張しながら、たたまれたハンカチを両手で差し出した。


「これ、学校で借りたの。……洗ってもらってもいい?」


男子のハンカチ。お母さんならきっと、「誰に借りたの?」「男の子?」なんて、あれこれ聞いてくるに違いない。揺里は身構えて、ギュッと肩をすくめた。


けれど、お母さんはハンカチを受け取ると、揺里の心配を透かすような優しい顔で微笑んだ。


「分かった。アイロンは自分でかける?」


ただ、それだけだった。


理由を問い詰めることも、面白がってからかうこともなく、いつも通りの穏やかなトーンで、私の言葉をそのまま受け止めてくれた。


「……あ、うん。自分でかける。ありがとう」


揺里は少しだけ拍子抜けしながらも、小さく頷いた。

お母さんがなぜ何も聞いてこなかったのか、揺里には少し不思議だったけれど、それ以上に、胸の奥を重く占めていた霧が、すうっと綺麗に晴れていくのが分かった。


秘密を抱え込まなくて、本当に良かった。


全部を一人で隠して、一人で『孤独の幸福』なんて難しい言葉に当てはめようとしなくて、本当に良かった。


お母さんの優しい笑顔と、洗濯カゴに入れられたハンカチを見つめながら、揺里は心からそう思った。


部屋に戻り、ベッドの上にコロンと横たわる。


明日になれば、あの綺麗になったハンカチを持って、また学校へ行く。


特別な劇的なことは起きないけれど、お母さんのぬくもりに守られた私の世界は、昨日よりも少しだけ、風通しが良くて温かい場所に変わり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。