第29話:購買のたまごサンド、いつもの特等席
4時間目のチャイムが鳴り響いた瞬間、教室の空気は一気に甘く、賑やかなものへと塗り替えられた。
「お腹すいたーーっ!」
マイが机の上にだらんと突っ伏して、大げさに声を上げる。
「はいはい、ゆらりん、早く行かないとたまごサンド売り切れちゃうよ」
チカが手早く筆箱を片付けながら、クスッと笑って揺里の袖を引いた。
三人で廊下を急ぎ、無事に手に入れたお目当てのパンを持って、いつもの中庭が見える渡り廊下のベンチへと向かう。ここは、一番高い位置にある太陽の光がまっすぐに差し込む、私たちのちょっとした特等席だ。
「いっただっきまーす!」
マイが購買のいちごオレのストローを勢いよく吸い込み、揺里はふわふわのたまごサンドを一口齧った。口いっぱいに広がる優しいマヨネーズの味が、午前中の授業の疲れをすうっと溶かしていく。
「ねえねえ、さっきの数学の先生のモノマネしてよ、チカ」
「え、嫌だよ、恥ずかしいし」
「いいじゃん、誰も見てないって!」
揺里がチカの肩をつつくと、チカは困ったように眉を下げながらも、眼鏡を押し上げる仕草を完璧に再現してみせた。その絶妙なクオリティに、揺里とマイは同時に吹き出し、ベンチがガタガタと揺れるほど笑い転げた。
「もー、チカ最高! お腹痛い!」
お腹を抱えて笑っているうちに、揺里の目からじんわりと涙が溢れてきた。可笑しくてたまらないのに、なぜだか一度出た涙がどうしても止まらなくなってしまう。視界がにじんで、二人の顔がぼやけていく。
「あれ? ゆらりん、笑いすぎだってば……って、え? 大丈夫?」
マイが慌てて覗き込んできて、チカも持ってきたパンを膝の上に置いた。
二人の顔からさっきまでの笑顔が消え、急に真剣な、心配そうな表情に変わる。
「ゆらりん、本当に笑い涙? どっか痛い?」
チカがポケットから素早くティッシュを取り出し、揺里の手に握らせてくれた。
「ううん、本当に面白かっただけだよ。ほら、涙が止まらなくなっちゃって」
揺里はティッシュで目を押さえながら、困ったように笑った。
マイは揺里の肩を優しくさすりながら、「もー、びっくりさせないでよ。最近のゆらりん、ちょっと疲れ気味だったから心配になっちゃうじゃん」と、少し眉を下げて顔を近づけてくる。
「ありがと。もう大丈夫」
涙を拭い去ったあとの瞳に、正午の眩しい光が反射する。
ただじゃれ合って、笑って、心配されて。
友達の真っ直ぐな温かさが、揺里の胸の奥を柔らかく包み込んでいた。




