第21話:月曜日を待つシーツ、胸のなかの小さな灯火
日曜日の、夜の十時。
お気に入りのミントグリーンのパジャマに身を包み、揺里はベッドの上で小さく膝を抱えていた。
部屋の明かりを消すと、窓の外から差し込む街灯の淡い光だけが、壁にパステル調の静かな影を落とす。いつもなら、この時間は猛烈な息苦しさに襲われる時間だった。
(また明日から、一週間が始まるんだな……)
先週までの自分なら、今頃「明日の学校、嫌だな」「みんなと上手く話せるかな」と、四角い教室の檻に閉じ込められる恐怖で胸をぎゅっと締め付けられていただろう。
でも、今夜の揺里の胸の奥にあるのは、それとは違う、静かで温かい鼓動だった。
枕元には、お気に入りのノートが置いてある。
そこには、図書室で見つけたサルトルの丸っこい文字の言葉と、昨日、街の図書館で見つけた美しいエッセイの景色が、大切に書き留められていた。
(私は、もうあの狭い教室だけの私じゃない)
私には、あの天井が高くて、誰も私のことを気にしな
い、無数の言葉が眠る広い「秘密基地」がある。
友達に話を合わせるためだけに、自分に嘘をついて笑う必要なんてない。私は自由で、私の未来は、これからいくらでも自分で選んでいけるんだ。
もちろん、明日教室のドアを開けるのは、少しだけ緊張する。
マイの優しい笑顔にどう応えようか、チカの不器用な視線とどう向き合おうか。そして、図書室の窓際で、静かにページをめくっていた千歳のあの眠そうな瞳が、ふっと頭をよぎる。
心臓が、トクン、と小さく跳ねた。
(みんな、それぞれに不器用で、それぞれに一生懸命なんだよね)
シーツに顔をうずめると、柔軟剤の優しい香りが鼻をかすめた。
誰に言い訳をするわけでもなく、誰の許可を求めるわけでもない。
私は、私の足で、明日からの新しい日常を、まっすぐに歩いていく。
「――よし」
小さく呟いて、揺里は布団を肩まですっぽりと被り、静かに目を閉じた。
遠くで聞こえるかすかな電車の音を聞きながら、揺里は胸の中の小さな灯火を大切に抱きしめて、穏やかな眠りの海へと深く沈んでいった。
明日、新しい一週間が、本当の私の物語が、またここから始まる。




