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それのどこが悪い!?【完全版】  作者: ぬこのここぬこ


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20/62

第20話:パステルピンクの帰り道、バスの窓から見える空


本を元の棚へ戻し、重い自動ドアを抜けると、外の空気は昼間よりも少しだけひんやりとしていた。


「……ふわぁ」


揺里は小さく息を吐き出し、お気に入りのポシェットの紐を肩にかけ直した。


街路樹の葉が、夕暮れの優しい風に揺れて、サラサラと心地いい音を立てている。


駅へと向かうバスに乗り込み、一番後ろの窓際の席に腰掛ける。


プシューと重い音を立ててドアが閉まり、バスがゆっくりと動き出した。


窓ガラスにそっとおでこを押し当てると、ひんやりとした感触が、本を読みふけって少し火照った頭に心地よかった。


流れていく景色は、お昼に見たいつもと違う商店街の看板や、知らない誰かの家の明かり。オレンジ色から、だんだんと深い紫色のグラデーションへと変わっていく空を、揺里はじっと見つめていた。


(みんな、本当におうちに帰るんだな……)


平日の夕方なら、マイやチカとお喋りしながら歩く、賑やかな通学路。


でも今の揺里の耳に届くのは、バスの低いエンジン音と、誰かがめくる新聞のガサガサという音だけ。


それは、ひどく孤独で、けれど、信じられないくらい自由な時間だった。


自分の部屋にあるノート。


そこへ新しく書き留めたい言葉や、さっき見た星空の絵のきらめきが、胸の奥で何度も静かにきらめいている。


誰に言い訳をするわけでもなく、誰の許可を求めるわけでもない。


ただ、お気に入りのブラウスの裾を少しだけ揺らしながら、夕暮れの街を一人でバスに揺られて帰る。ただそれだけのこと。


でも、それだけで、私のなかの何かが、静かに、満たされていくのが分かった。


最寄りの停留所でバスを降り、見慣れた家の玄関のドアを開ける。


「ただいま」と小さく呟いた揺里のローファーの先には、今日という特別な土曜日の、優しくて温かい余韻が、いつまでも静かに残っていた。

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