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それのどこが悪い!?【完全版】  作者: ぬこのここぬこ


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15/62

第15話:ガラスの宮殿、息をのむ本の海

 

 バスのドアがプシューと重い音を立てて開くと、目の前には、学校の校舎よりもずっと大きな建物が、お昼下がりのまばゆい太陽の光を浴びてそびえ立っていた。


『市立中央図書館』


 コンクリートと大きなガラス窓でできたその建物は、まるで光を集める透明な宮殿のようだった。

 揺里は、お気に入りのポシェットの紐をぎゅっと握りしめ、ゆっくりと歩みを進めた。入り口の自動ドアが静かに左右に開くと、ふわりと心地いい風が揺里の頬をなでる。


 一歩、足を踏み入れた瞬間――。


「……わぁ……っ」


 揺里は思わずその場に立ちすくみ、小さな歓声を漏らしてしまった。


 広い。驚くほど、広い。

 見上げるほど高い天井からは、柔らかな木漏れ日のような光が降り注いでいる。そして、地平線のようにどこまでも整然と並ぶ、無数の焦げ茶色の木製の棚。そこには、数え切れないほどのカラフルな背表紙が、ぎっしりと、美しく並んでいた。


 学校の図書室なんて、この建物の入り口のロビーくらいにしかならないかもしれない。


 平日の教室を満たしている、あの「誰が誰と仲が良い」とか「誰が誰をどう思っている」という、息が詰まるほど濃密で狭苦しい空気は、ここには一切なかった。


 ここにあるのは、ひたすら静かで、けれど圧倒的な量の、世界中の言葉の気配。


 革靴の小さな足音を響かせながら、大人の人たちが静かに歩いていく。


 誰も、揺里の服を品定めしない。誰も、揺里が何者であるかを気にしない。


 ただの「名前のない一人の人間」として、この美しくて静かな空間に溶けていけることが、揺里にはたまらなく心地よかった。


(バスのおばあちゃんが言っていた通り、本当に気持ちがいい場所……)


 胸の奥の風通しが、一気に良くなったような気がした。


 学校という小さな箱の外には、こんなにも広くて、優しくて、静かな世界が、私を待ってくれていたんだ。


 揺里は、トク、トク、と高鳴る胸の鼓動を感じながら、ゆっくりと本の海の奥へと歩き出した。


 案内板に書かれた『哲学・思想』の文字を探して、私のまだ知らない「新しい言葉」に出会うために――。

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