↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それのどこが悪い!?【完全版】  作者: ぬこのここぬこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/62

第11話:最後のページ、最初の選択

 

 月曜日の朝。

 週末のパステルカラーの静寂は終わりを告げ、またいつもの、少し騒がしい一週間が始まった。


「ゆらりん、おはよ! 今週の土曜、駅前のアイス屋さん行かない?」


 席につくなり、マイがいつもの眩しい笑顔で振り返ってくれた。チカも隣で「限定のストロベリー味、出たんだって」とスマホの画面を見せてくれる。


 先週のギクシャクをなかったことにしてくれるような、二人の優しさ。


 いつもなら「行く行く!」と即答して、その優しさに甘えていただろう。でも、揺里の胸の中には、あのノートに書き写した丸っこい文字の言葉が、小さなお守りのようにしっかりと息づいていた。


「……うん、行きたい! 土曜日の、お昼からなら大丈夫」


 自分の予定をちゃんと確かめて、自分の言葉で答える。

 それだけのことが、今の揺里にとっては、小さくて大きな、最初の一歩だった。


 マイとチカは嬉しそうに顔を見合わせて「やったー!」とはしゃいでいる。その姿を見て、胸の奥がじんわりと温かくなった。自分に嘘をつかなくても、みんなと繋がっていられる方法は、きっとあるはずだ。


 そして放課後。


 揺里は、吸い寄せられるように図書室の扉を開けた。


 西日の差し込む『哲学・思想』の棚。そこには、一週間ずっと揺里に寄り添ってくれた、あの色褪せた文庫本が静かに待っていた。


 窓際の席には、今日も千歳が座って別の本を読んでいる。お互いに声はかけない。けれど、この静寂を共有しているというだけで、どこか心強かった。


 揺里は椅子に腰掛け、文庫本の残された最後の数ページを開いた。


 文字を目で追っていく。

 サルトルは、未来はあらかじめ決まっているものではなく、自分の選択によって、これからいくらでも作っていくものなのだと、最後にそう締めくくっていた。


(……私の未来は、私が選んでいく)


 ぱたん、と静かな音がして、最後のページが閉じられた。


 一冊の本を読み終えた瞬間、図書室の窓から差し込む夕暮れの光が、いつもよりずっとキラキラと輝いて見えた。


 揺里は立ち上がり、本を元の棚へと戻した。

 ぽっかりと空いた、その隣のスペース。学校の小さな図書室の棚は、もうこれで終わりだ。


(もっと、広い場所へ行こう)


 千歳がいつか言っていた言葉が、今ならはっきりと分かる。


 ここではない、もっとたくさんの言葉が眠る、街の大きな図書館へ。


 誰に言い訳をするわけでもなく、誰の許可を求めるわけでもない。


 私は、私の足で、もっと広い世界へ歩き出す。

 これが、一六立揺里の、本当の物語の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。