第四話 明け方:夢を待つことをやめた朝
第四話「明け方」です。
予知夢を見るようになった康介は、少しずつ日常を失っていきます。
未来を知れることは、本当に幸せなことなのか。
眠るたびに何かを待つようになった彼が、たどり着いた朝とは――。
今回もお楽しみいただければ幸いです。
眠れない夜が、数えられるくらいから、数えられないくらいに変わった。
康介は布団の中で何度も寝返りを打った。目を閉じれば、何かが来るはずだと身体が待っていた。待っているうちに、夜が明けた。そういう日が続いた。
会社では、何度も同じ資料を読み返した。読んでいるはずなのに、内容が頭に入ってこなかった。先輩に名前を呼ばれて、初めて顔を上げることが増えた。
「最近、顔色悪いな」
そう言われても、康介は曖昧に笑っただけだった。説明する言葉を、まだ持っていなかった。
河原に行く回数は、減っていった。寄っても、ベンチに座る気力がなく、橋の上から土手を見下ろすだけの日もあった。ハルはいつもの場所にいたが、康介の方が、もう猫の動きを目で追う余裕を失っていた。
ある晩、康介はスマートフォンのメモを開き、丸のついた項目をすべて読み返した。改札。くじ。マグカップ。電車の遅れ。咳。一つ一つは、何の意味もないことだった。それなのに、自分はこれらのために、眠る時間のほとんどを差し出していた。
メモを閉じた。閉じたあとも、画面の余熱だけが手のひらに残っていた。
その夜、康介は久しぶりに何も願わずに目を閉じた。願わなかったことに、自分でも少し驚いた。
明け方、目が覚めたとき、夢の内容は何も残っていなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第四話「明け方」では、予知夢そのものよりも、それを待ち続ける康介の心の変化を描きました。
未来を知ることができても、人は必ずしも安心できるわけではありません。
むしろ、知らなかった頃にはなかった不安や重さを抱えることもあるのかもしれません。
次回も、康介とハルの物語を見守っていただけると嬉しいです。




