第五話 跡:夢が消えた後に残るもの
第五話「跡」です。
夢を見なくなった康介の日々を描きます。
予知夢という不思議な出来事が終わったあとに残るものは何なのか。
これまで積み重ねてきた記憶や、出会った存在が静かに残したものを感じてもらえればと思います。
よろしくお願いいたします。
それからしばらく、康介は夢を見なくなった。
正確には、見ているのかもしれなかった。ただ、朝になると何も残っていなかった。改札も、くじも、マグカップも来なかった。来るはずのものを待つ必要がなくなった分だけ、夜は早く終わるようになった。
スマートフォンのメモは、いつからか開かなくなった。丸のついた項目は、画面の中でそのままになっている。消す気にもならず、見返す気にもならなかった。
休みの日、康介は久しぶりに河原まで歩いた。土手の木箱は、もうなかった。管理人の老人の姿も見えなかった。ハルもいなかった。
「ハルって呼んでるんですけど、最近は来なくてね」
別の誰かが、犬の散歩の途中でそう言った。康介は頷いただけだった。猫がどこへ行ったのか、聞かなかった。聞いても、答えがあるとは思えなかった。
「前にも、ここに来てた人がいましたよ」と、その誰かは続けた。「妙な夢を見るって言ってた人。ハルが来なくなったら、その人も来なくなった」
康介は何も言わなかった。聞き返すべきかどうか、迷っているうちに、相手は犬に引かれて先へ歩いていった。
本棚の夢占いの本は、まだそこにあった。手に取る回数は、減っていた。読み返しても、以前のように答えを探している感覚はなかった。ただ、ページをめくる癖だけが残っていた。
夜になると、康介は何も期待せず電気を消すようになった。眠りはすぐに来た。来てしまえば、それで十分だった。
何の夢を見たのか、もう誰にも聞かれなかった。聞かれなくなったことに、康介はほっとしているのか、寂しいのか、自分でもよく分からなかった。
お読みいただきありがとうございます。
第五話「跡」では、夢を見ることがなくなった康介の、その後を描きました。
不思議な出来事が終わったあと、人は何を抱えて生きていくのか。
答えがはっきり見えるものではなくても、出会いや記憶は心のどこかに残り続けるのかもしれません。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。




